第3話:存在力と経験値
.
「因みに、私達はまだギルドに行って無いのでランク外だよ」
「そういえば、そんな場所に行った覚えが無い。あれ? 美衣……ミスティ、問題は無いのか?」
「通常なら有るんだけど、私達は愛坂学園へ入学が決まってるからね。愛坂学園の冒険科に入れば自動的にギルドランクFに成るんだよ」
美衣奈からの説明によれば、冒険者ギルドのランクは見習いをFランク、それを過ぎたEランクときて、半人前でDランクとされている。
故に一人前とされるレベルでCランクという。
「だけど、Cランク程度だとダンジョン攻略だけじゃ食べてはいけないから副業感覚か、若しくはちょっと稼ぎたいくらいの感覚かな?」
「すると?」
「一端に食べれる様に成るのなら、プロと称されるBランク以上に上げないといけないんだよ」
普通に知識が有るなら、卦韻とは違って両親の本当の職業を幼い頃から理解していたのだろう。
〔補足をすると、Cランクでもちゃんと頑張れば食べていけるぞ〕
〔一応は一人前だからね〕
〔可成りの頑張りが要るぞ? 八時間就業で仕事をした方がマシ〕
〔命懸けでは無いけど、あれは尊厳が死ぬから〕
何だか、リスナーが気になる事を呟いていた。
「尊厳が死ぬ?」
「ああ、それね。ダンジョンでHP? が0に成っても死亡はしないよ、理の違いからだろうけれど。その代わり死亡したと見なされると、ダンジョンからペッされるんだ。その際に持っていた物は全てを、装備品も着ている服や下着や持ち物ならばアイテムやお金に至るまで喪ってしまうんだよ。詰まりは素っ裸でダンジョンの入口に放り出されちゃうんだよね~」
「た、確かにそれは尊厳という名のHPが死ぬな」
命を奪われないけど尊厳的には致命傷である。
当然ながら男女問わずだろうし、女性冒険者は間違いなく命を奪う奪われないに拘わらず死ねない事案、確かにそれなら八時間就業で二時間くらい残業をして、堅実に稼いだ方が遥かに安全という事なのだろう。
「判ったのならレベルアップの方に話を戻すよ」
「あ、ああ……」
脈動の意味など、未だに不可解な事ばかりなのに美衣奈はそれの研究をしていたのだと言う。
「私達が、冒険者が経験値と呼んでいるのは単なる戦闘経験の積み重ねじゃない。勿論、闘えば闘っただけ戦闘経験は積み重なるよ。だけど、それこそゲームではあるまいし、経験を積んでレベルアップなんて有り得ないんだ」
〔それはそう〕
〔でもさ、ダンジョンだったら有り得るんじゃないの?〕
〔ミスティちゃんも理が違うって言ってたし?〕
〔だよな?〕
リスナーとしてはファンタジーだからだとか、ダンジョンでは理が異なるからで納得みたいだ。
概ね、その意見で一致した。
「理が違いからというのは間違い無いんだよ? でもそれは経験が肉体を強化するものじゃない」
「それはいったい?」
「私達がダンジョン内で魔物を斃して獲られるのは“魔核”とドロップアイテムだけじゃないんだ。それは魔物が持つ存在力。それを私達は便宜上で経験値と呼んでいる。この存在力は基本的に強い個体であれば多いし、同じ種族でもよりレベルが高い個体なら存在力は多くなる。斃すと存在力を私達が奪っていき、一定の域を越えると変革が起きてレベルアップする。肉体的にも変異を及ぼすからレベルアップした際に胸が脈動を刻むんだ」
〔ええ?〕
〔そんな話は、聴いた事も無いんだけどなぁ?〕
〔これこそが、ミスティちゃんのしていた研究の成果だってぇのか?〕
経験値=存在力、レベルアップによる肉体的な変革、魔物を斃せば獲られる存在力なるナニか。
リスナーは於ろか、現役の冒険者ですら考えもしなかった結論だ。
「ゲームでも有るけど、大して強い魔物でも無いのに硬かったり逃げたりする経験値の高いのが居るよね? ああいうのも凝縮された存在力を持つからこそ、より多くの経験値を手に入れられる」
美衣奈の言葉は確かな研究なのかどうか卦韻もリスナーも判らないが、随分はっきりとした口調で答えらしき事を言うので信じたくなる。
〔いったいどういう研究?〕
〔若し本当なら、それって超が付くくらいの研究なんじゃね?〕
「因みに、この研究結果は冒険庁へと提出済み」
冒険庁という名が示す通り冒険者ギルドというのは政府公認の組織、当然ながら美衣奈の研究も政府へと提出されているという事。
「じゃあ、政府も既に知っている内容なんだな」
「そう、お父さんを通じて私の名前で提出したからね。今現在は冒険庁の方で検証中の筈だよ」
美衣奈が一六歳の身空としては、余り無い胸を張りながら言う。
この研究の成果が正しいと判断されたならば、愛坂美衣奈の名前で大々的に発表がされるのだ。
「他にも有るけど、リスナーさんも可成り増えてるみたいだから。そろそろ地下一階に下りよう」
「そうだな……」
〔いよいよか〕
〔何か、初心者ダンジョンなのに俺までドキドキしてきたぜ〕
〔場の雰囲気的な?〕
卦韻と美衣奈はリスナー達に見守られながら、遂にダンジョンの地下一階へと足を踏み入れた。
初心者用ダンジョンの地下一階、それは先程の地上一階とはまた雰囲気が異なる上に冷やかなる空気が流れ、ゲームとは違っておどろおどろしいかったり軽快だったりなBGMも流れない静けさ。
卦韻は緊張感から、腰へと佩いたクリスタリオンの柄に手を添える。
ピタピタと足音が聴こえてきた、ダンジョンの暗がりから現れたのは緑色の肌を持った小鬼だ。
「ゴブリンだよ!」
「出たか!」
柄を握り締めて卦韻はクリスタリオンを抜剣、近接戦闘をする身として前衛を務めるべく走る。
「喰らえっ!」
「アギャッ!?」
斬っ! その一撃がゴブリンの素っ首を刎ね飛ばした。
「火球!」
透かさず美衣奈が、二匹目のゴブリンに火球の魔法を撃ち込む。
杖を使わず、右手の人差し指と中指だけを立てて圧縮をした火球が、それはまるで拳銃の弾丸の如く高速で飛翔をすると額を貫いたのだ。
二匹のゴブリンは死亡して黒い粒子に還って、その後には二個の小さな結晶体が落ちている。
「これが魔核だよ」
「この小さいのが?」
「魔物が強く大きくなれば魔核も純度を増すし、大きさだってもっと大きくなる訳だからね」
「ドロップアイテムは無しか」
「そうだね、ゴブリンの場合は爪や牙だけれど、それは余り高くは売れないから、若し落としたらラッキーくらいに思おうよ。とはいえども、ゴブリンの魔核も大した値段には成らないんだけど」
美衣奈が二つの魔核を弄びながら笑っていた。
「そういや、幾ら?」
「一個で約三〇〇円」
「安っ!」
雑魚とはいえ、そして死なないとはいえ尊厳の対価が三〇〇円。
「二個で六〇〇円か~」
「一〇匹も斃せば三〇〇〇円、プチポーションが一個で五〇〇円。六個しか買えないんだよね」
「プチポーションって確か……」
プチポーションはゲームで云えばポーションの更に弱いバージョン、それにはHPがちょっとだけ回復するという程度の効果しか出ない。
多少の擦り傷や切り傷や打ち身なら治るけど、余りに深いダメージには少し効果が低かった。
勿論、連続で使えば少しずつ治るのだが……
〔プチポーションよりポーションの方がコスパは良いんだよな〕
〔けど、値段的なコスパは?〕
〔ポーションは一個が三〇〇〇円だった筈だし、プチポーションが六個分なのが痛くね?〕
〔それでもプチポーションを六個飲むより回復率が高いんだよ〕
リスナーが口々に……というか、書いているのはプチポーションとポーションのコスパの話。
ポーションなら一回の服用でも、それなりの効果が期待出来る上にダンジョンでの隙も小さい、矢張りというか一回で済むのが大きい。
(まぁ、武器と防具がレンタルじゃなかった時点で恵まれたスタダか)
通常、武器や防具はギルドでお金を払って借りねばならない処だが、美衣奈の自宅に有った中古品を使えるスタートダッシュが良かった。
.




