第2話:初ダンジョン
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遂に中古品であるとはいえ、装備品を身に付けた卦韻と美衣奈の二人は、美衣奈の父親――愛坂玲也に見せに行こうか……となって、武具の倉庫を出ると書斎へと向かう。
「そういや、小父さんに許可を得ているのか?」
「当たり前だよ。ダンジョンなんて危険な場所に潜ろうってのに、お父さんから許可を取らないと後で怒られちゃうだけだもんね」
問われてニコリと笑顔で答えた。
コンコン……
「入りなさい」
書斎の扉をノックして返事があったから入る。
「お父さん、見て見て!」
「美衣奈、それに卦韻君。似合っているじゃないか二人共。美衣奈のは母さんの、卦韻君のは私が昔に使っていた防具だ。本当は卦韻君は君の父親である楠葉慎吾の防具を使わせたかったんだが、残念ながら実は慎吾の装備はちょっとな」
「父さんの装備?」
「ああ、私も慎吾も扇歌も理央も冒険者だから。それも現役のな」
「父さんと母さんが冒険家だって話は聴いてもいたけれど、実際には冒険者だったの? それに、小父さんと小母さんまでもが!?」
「そうだ」
楠葉慎吾と楠葉理央、愛坂玲也と愛坂扇歌という夫婦は卦韻が知らなかったけど冒険者である。
一般的に冒険者と呼ばれるのは昔なら冒険家とも呼ばれる存在でもあったが、現在の冒険者とはダンジョン探索を行う者達の事を指す。
「私達は元々、親父に言われて修練はしていた。まさかそれがダンジョン探索の為だったとは知らなかったがね。大学卒業すぐに結婚をして君達がデキた。そして卦韻君が産まれたその日に初めてのダンジョンが顕れたんだよ。そしてダンジョン探索を私達は始めたのさ」
「一六年も探索を? だけど俺、知らなかった。小父さんは実業家なんだと思っていたけど?」
「それも間違いじゃないな」
愛坂学園の理事の一人、それでいて実業家というのも嘘ではない。
一〇年くらい冒険者業に従事し、その後は事業を展開――当然ながら冒険者業にて獲た代物を使っての事業であるが故、冒険者用に造られた品物を使っていた。
「さぁケイン、行こう! いざダンジョンに!」
「あ、ああ……」
卦韻と美衣奈は愛坂玲也に一礼して退室する、そんな後ろ姿を見守る彼は顔を伏せながら呟く。
「どうか無事に……」
その最後の呟きは大気に溶け消えるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
愛坂学園の敷地内、裏山とも云うべき場所に在るダンジョンの前へと立っている二人。
それは初心者御用達ダンジョン、校門の守衛に学生証を見せれば愛坂学園の関係者として通して貰える、後は裏山へとレッツゴーである。
「それじゃ、始めようよ」
「ああ。他に誰も居ないけど大丈夫なのか?」
「初心者が入るダンジョンだから、大概はすぐに初心者ダンジョンなんて卒業をしちゃうからね」
「そうなのか……」
このダンジョンは学園の裏山とも云える場所に存在しており、現れる魔物も正しく初心者御用達みたいに弱めな連中ばかりだ。
実際、ゴブリンにコボルトといったRPGなどでも雑魚として出現し、主人公パーティの経験値に成るばかりの存在として周知されている。
勿論ゴブリンやコボルトとはいえ集団に成り、知能が働くのなら厄介な事極まりないのだろう。
事実としてもっと等級の高いダンジョンには、そんな集団戦を仕掛けてくるゴブリン達も間違いなく存在をしているのだからな。
二人して入ダンをする。
「ぐっ!」
ドクンドクンと脈打つ、それに対して卦韻が胸を押さえて蹲った。
ふと見遣れば美衣奈も胸を押さえている様だ。
「美衣奈、これは?」
「レベルアップだよ」
「……は?」
レベルアップと聴いて驚きに目を見開く卦韻。
「脈動が二回有ったよね?」
「確かに有ったけど」
「それはレベルが二回アップした証明なんだよ」
「詰まり、俺はレベルが3に成ったって事か?」
「正解」
ダンジョンに入った事によって、卦韻と美衣奈はそれによる特殊な理でレベルアップしていた。
「魔物を斃した訳でも無いのにレベルアップ?」
「其処ら辺の説明は配信をしながらしよっか」
そう言いながら、美衣奈が配信用ドローンのスイッチを入れる。
【Crystal Chronicle Ch】
〔おっ、新設サイトが出た?〕
〔おハロー♪〕
〔新人さんかな?〕
配信すると決めた時点で美衣奈はサイトを予め作っておき、後はダンジョンに入ったらスタートさせるだけな感じに待機させていた。
そしてスタートさせて早速と云わんばかりに、新設サイトの反応がライブ感溢れているコメントで表れる。
「はい、【Crystal Chronicle Ch】通称CCCの配信者をしてるミスティ・ヴィナーシュとケイン・ユラナスです! 私達はこの春から高校生で配信者デビューと成りますが、全くの新人なので先ずは手始めに初心者ダンジョンに降りています」
配信名とでも云うのか、卦韻のケインは兎も角として、美衣奈に至っては本名に掠りもしない。
一応、ミから始まるから掠ってはいるのか?
〔新人コンビ乙〕
〔ってか、すんごい美少女なんですけど~?〕
〔男の方、俺と代われ!〕
〔ヤフ~!〕
美衣奈がコメント返しとばかりに説明をしたらまた反応が、卦韻もスマートフォンでサイトを観ているからコメントの数が判っていた。
「さてさて、私達は新人ですけどチャンネルを観てくれている人達はその道の玄人かな? だけど新人ならではのお勉強をしながら説明をしていく事になるから、頑張って着いてきてよね?」
〔オケ~〕
〔そりゃ、新人ちゃんなら仕方がないからね〕
〔ピッカピカの一年生で、ピッカピカのダンジョン配信者ってね〕
ノリの良いリスナーに卦韻は首を傾げている。
「私達はダンジョンに入って早速、ダンジョンの洗礼を受けました」
〔初ダンジョンの洗礼!〕
〔行き成りレベルアップだね〕
〔RPGじゃ有り得ねー!〕
〔突然、脈動するから新人だと驚くんだよねー〕
リスナーは玄人だったらしくて、レベルアップの脈動も彼らは確りと既知だったみたいである。
「まだ此処は入口、魔物もこの辺には出てこないので最初にするお勉強はレベルアップについて」
〔レベルアップについては一六年、ダンジョンが顕れてから未だに解析が終わってないんだよな〕
〔どんなお勉強を?〕
〔レベルアップすると脈動が起きるって話だし、その脈動の回数がレベルだって話に成るんだって解析はされているんだよな〕
どうやら此処に居るリスナー達、脈動のレベルアップについてもちゃんと知っていたらしい。
「先ず、脈動=レベルアップ。だから私達が実力を上げるなら魔物を斃して、この脈動に身を委ねないといけないんだよ」
「あれ結構、キツいんだけど」
「心配しなくても、レベルが5にでも成れば慣れてくるよ」
「そうなんだ?」
「走るのだって最初はキツくても、続けていればしんどく無いよね?」
「確かに……」
美衣奈もキツそうにしていたのは初レベルアップだったから、だけど彼女の説明が本当であればいずれは慣れてキツさも無くなるらしい。
「実はレベルアップに関しては私も研究をしていたんだ」
「研究?」
「そ、研究だよ」
ニコリと笑う美衣奈。
〔研究って、ダンジョン初なのにどうやって?〕
〔ムリくね?〕
「そんな事無いよ、私の知り合いの冒険者にヒアリングとかして独自に研究をしていたからね」
〔お、ミスティちゃんの知り合いって誰々?〕
〔有名人?〕
「冒険者名“レイヤ”」
〔始まりの冒険者じゃん!〕
〔たった二人のトリプルホルダー! 奥さんも確かダブルホルダーだった筈ろ?〕
またもや、卦韻にとって聴き慣れない単語が出てきて戸惑う。
「ホルダー?」
〔うわ、マジもんの初心者でww〕
〔初々しいねぇ〕
卦韻も冒険者という仕事が一六年前から存在している事は知っているが、余り積極的に情報を集めてはいなかったから無知に等しい。
「ホルダーってのはギルドランクがSの事だよ。シングルホルダーがSランク、ダブルホルダーがSSランク、トリプルホルダーがSSSだね」
「ギルドって所謂、冒険者ギルドの事だっけか」
「そう、ケインの好きなライトノベルなんかでもお馴染みだよね」
ファンタジー系のライトノベルで御用達な冒険者ギルド、実力を測って依頼の割り振りが成されたりする関係から、自ずとランクによる格付けがされていく事になるのは仕方が無い事であろう。
極端な事を云えば、冒険初心者の成り立てへとドラゴン退治を依頼する事など有り得ないから。
ランクに関してはアルファベットや数字が一般的に使われそうだが、偶に鉱物や色分けなんかも有ったりして、それはそれで面白いものだ。
この地球にダンジョンが顕れてから冒険者稼業が登場、それを取り纏める公的機関が設立をされたのは、極々自然の流れだったのだそうな。
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