第10話:火祭兄妹の初勝利
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北海道の某市某町の一角、邸と呼ぶには小さくて個人宅としては広い家に赤毛の兄妹が住まう。
木の加工をした槍を揮う少年と、特に何かを持つでは無く身体全体を使って動いている少女。
「お兄、今日からダンジョン行くんだから余り飛ばさないでよ」
「わーってるよ、ったく、ホント口喧しいな我が妹様はさ」
「聴いてるんだぞ!」
「はいはい」
名前は火祭槍太と火祭璃亜。
卦韻と美衣奈にとって幼馴染みの兄妹であり、美衣奈からの連絡でダンジョン探索を行う予定。
元々が冒険者を目指していた槍太と璃亜だし、一もなく二もなく頷いたのは言うまでもない。
「問題は俺も璃亜も近距離型って事なんだよな」
「まぁ、最接近型のボクよりはお兄が距離を空けて闘えるじゃん」
「そうだがよ~」
槍を振り回す槍太はリーチが剣よりは長くて、拳や蹴りが主体の璃亜は剣よりもリーチが短い。
「それに、だからこそダンジョン探索では我らが従姉である瑠亞姉にも手伝って貰うんだよね?」
「まぁな」
母方の姉夫婦である水無家、現在ホームステイをさせて貰っている居候先の娘さんの事である。
水無瑠亞――現在の年齢は一九歳で大学二回生であり、ダンジョン探索を行う冒険者として少しは名の通ったギルドランクAを持つ才媛。
その職業は術士、美衣奈とは違って回復系とか支援系の魔法に高い適性を顕し、武器は弓矢の様な物を好んで使っているので噛み合うのだ。
「お兄、顔が紅いよ?」
「うるっさいな!」
この従姉様は槍太にとって初恋のお姉ちゃん、しかも所謂“男好きのする肢体”だからモテる。
肢体の線は痩身、だけど出る部分は確りと出ているから余計に目立つ為か、術士なのを良い事に揺ったりとしたローブを着ていた。
美女なのもそうだが、術士自体の絶対数が少ない事も相俟って、パーティを組みたい冒険者から引っ張りだこなので、普段は余り組まない。
小学生の頃からその肢体の傾向は出ていた為、槍太としても“憧れのお姉ちゃん”的な扱い。
従姉であり、立ち位置が近い場所なのも拍車を掛けていた。
「ほらお兄、朝御飯だよ」
「もうそんな時間か」
叔母夫婦の家とはいえよく泊まりに来ていたから最早、勝手知ったる何とやらというやつだ。
木槍をいつもの袋に仕舞うと部屋へと置いて、槍太はリビングにまで行くと朝御飯を食べる。
目玉焼きを食パンに乗せて焼いた目玉焼きパンを食べて珈琲を飲んだ、仕事に行く前に叔母である水無藤花が作ってくれたものだ。
そして初心者用と称されるダンジョンへ妹である璃亜と共に向かう、当然ながら槍太は武器をきちんとした青銅製の槍を持って行った。
璃亜は闘士だから、鉄製のナックルダスターを装備している。
「来たな、ダンジョン!」
「向こうと違って学校で管理していないからね、ギルドの管理下に有るみたいだよ、お兄」
「だろうな」
冒険者ギルドとは冒険者を庇護するのが目的に愛坂家が主導で設立していたが、勿論ながら冒険者同士で喧嘩をしたり、大問題として冒険者では無い一般人との争いをしたり、これらの仲介をするのも冒険者ギルドの業務という事になってる。
槍太と璃亜がギルドの部屋へと入ると、其処にはAランク冒険者にして従姉の水無瑠亞が居た。
「瑠亞姉さん!」
「瑠亞姉ぇ、ヤッホ!」
「久し振りですね、二人共」
背中にまでストレートに伸ばした長くて美しい黒髪、初雪の如く真っ白で且つ健康的な肌を持つ長身でスレンダーながら、胸やお尻は従妹な璃亜より出ている女性が二人の挨拶に応えてくれる。
まぁ、肢体の線はローブにより隠れてるけど。
対して璃亜、赤毛で肌は日焼けで茶褐色な肌色であり、身長はちょっと低めで胸はそれなりに大きいという、だけど同じ従弟枠でも槍太はそこそこに背丈が高くて双子と思えないくらいだった。
瑠亞の背中には矢筒、筒内にはギッシリと詰まっている。
更に腰にはメイスが、飽く迄も瑠亞の主武装は弓矢ではあるのだけれど、近接戦闘をする場合にメイスは必要不可欠だから所持していた。
尚、瑠亞は細い腕をしながら腕力が凄まじい、その理由とは幾度にも亘るレベルアップに有る。
レベルが上がっても筋肉が付く訳では無くて、今の処は理由が判っていないけど何らかの理が働いているとか、瑠亞の能力は果てしない。
三歳上でしかない瑠亞がランクAと高ランク、ならばこそ槍太も璃亜もそれを目指したかった。
「それじゃ、行きましょうか」
「了解!」
「は~い!」
ギルドでの諸々の手続き、ランクAの表記が成されている金色のギルドカードを受付嬢に提出、ランクが高い人間が低ランクダンジョンに入るのは宜しくない、だからどうやっても煩雑な手続きが必要となる。
槍太と璃亜は瑠亞と一緒にダンジョン一階へと入っていく。
「これがダンジョンか」
「単なる洞窟っぽいね」
「フフ、ようこそダンジョンに」
瑠亞は二人にバッと両腕を真横に開きながら、ダンジョンへの初入ダンを笑顔で歓迎していた。
ダンジョン探索での先輩冒険者としてである。
高校卒業後には大学に行く為に、基本的には地元の北海道を出て冒険者も大学近くで続けてた。
一人暮らしの資金は冒険者としての稼ぎにより出していたし、仲間というかパーティメンバーがギルドランクS級である楠葉夫妻だ。
元々、瑠亞の母親の姉が普通に愛坂家の人間であるから、楠葉夫妻も目を掛けていたのである。
「うぐっ!」
「あっ!」
ドクンッドクンッと二人は二度に亘る脈動を感じて蹲った。
「初ダンジョンの洗礼ですね」
「せ、洗礼?」
「槍太君と璃亜ちゃん、二人はレベルアップをしたんです」
「これが……レベルアップ……だって云うの?」
脈動が苦しくて息も絶え絶えで、こういうのがレベルアップで毎回起きていたら堪ったものでは無い。
「大丈夫です、私も最初はそんなんでしたから。でも、二回目三回目とレベルアップしたら慣れましたよ」
「慣れるんだ……」
「ボクらも?」
人間というのは慣れる生き物だ、そう思わないと遣っていけないといった事なのであろう。
「さぁ、行きますよ」
瑠亞と共にレッツゴー。
「そういや、お兄?」
「ん?」
「配信とかしないの?」
「どうせあっちに帰ったら卦韻達と配信するさ」
「そういや、卦韻や美衣奈ちゃんは配信するんだったっけ?」
正確には美衣奈から聴いていただけであるが、彼女がそうするなら自動的に卦韻も配信者だ。
それに配信用ドローンは結構な高価格帯だし。
「卦韻君と美衣奈ちゃんか。慎吾師匠達の子供だから強いですよね」
ニコリと微笑む瑠亞。
強いとは云っても初心者用ダンジョンに入れる程度のもの、瑠亞に比べれば月と鼈くらいの差違が有るのは間違いない事であろう。
それでも伸び代は充分、いずれは卦韻と美衣奈が自分という壁を乗り越えるかもと考えていた。
ダンジョンを降りてB1に着いた一行は暫く歩いていると、ヒタヒタと余り愉快とは云えない足音が響いて来たのを聞き咎める。
「恐らくゴブリンですね。それでは槍太君と璃亜ちゃんは早速ですが、魔物退治をしましょうか」
槍太も璃亜も緊張感を漂わせながらも頷いた。
二人で模擬戦闘訓練はしてきた、それは謂わば対人戦闘だったから人型をしたゴブリンであるならば寧ろ打って付け、理想的な相手である。
槍太が槍を、璃亜が拳を構えていると、小さくて緑の肌をした人型が歩いて来た。
実戦に合図は無い、二人はゴブリンが此方に気付いて動き出す前に駆け出しており、高速の突きを繰り出してゴブリンのド頭を貫く槍太と、鳩尾を打って顎を打ち抜いてグシャッと床に落ちてきたゴブリンの頭を踏み潰して殺る。
「うっしゃ! 経験値をゲットしてやったぜ!」
「ちょっとエグかったな?」
初ダンジョン、初レベルアップ、そして初実戦での初勝利だった。
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