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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第一章:聖霊剣
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第1話:冒険の始まりを

.

 少年、楠葉卦韻が誕生してより約一六年。


 楠葉卦韻は中学校を卒業して第一志望であった高校に入学を果たしていた。


 “私立愛坂学園”というそれなりに名の通っている私立の高等学校であり、実は学園理事長である愛坂惣元と祖父の楠葉煉鵬は幼馴染みで飲み友達で更に、愛坂惣元の父親と楠葉煉鵬の母親が兄妹という即ち従兄弟といった血縁関係。


 二人は同い年な為にどちらが上だ下だといった格差も無く、本当にまるで同腹の兄弟でも有り得そうに無い程に仲が良かった。


 幸いにも愛した女性が別々だったから女性関連の諍いは無かったし、嫁さん同士も仲良くしていたから本当に理想的な家族だったと云う。


 そんな関係で卦韻も厳しくされながらも大事に育てられており所謂、文武両道を地で往かされたのには多少ながら辟易したけど、それでもまるで二人の祖父に見守られているみたいだったろう。


 そんなある日の春休みの事、卦韻の住まう街に愛坂美衣奈という又従姉弟が北欧の地より舞い戻って来たのである。


 帰国子女というやつだ。


「久し振りだね、ケイン」


「ああ……多分?」


「……忘れてたね?」


 翡翠色の髪の毛をポニーテールに結わい付け、紫水晶の如く瞳をジトッとさせながら言う。


 髪の毛を結わい付けているのは赤いゴムに赤い珠が二つ付いた髪留め、普通の桜色のワンピースを着ていて白い肌がよく映える。


 顔立ちは完全に美少女……だが、胸部装甲は完全に微……


「今、何か不愉快な事を考えたね」


「な、何でも無いよ!?」


 ジト目というより最早、睨み付けてきていた。


(な、何で判った?)


 一六歳としてはペッタンコでは無いにしても、可成りの微乳で下手に日本人の血が出ている。


 今時であるなら大きな女性も居るのだろうが、海外の人に比べると昔の日本人は平均が小さい。


 美衣奈は又従姉弟にして幼馴染みだったのが、彼女が一〇歳の時に母親の故郷に留学をした。


「六年振りに成るのか」


「そうだね、毎日の様に遊んでたのが嘘の様だったよ。私は寂しいと思ったけど、ケインは?」


「一ヶ月くらいは落ち込んだ」


「奇遇だね、私もだよ」


 朗らかに笑みを浮かべる美衣奈を視ていて思う事は一つ、卦韻はこの笑顔を曇らせたくないというものであったと云う。


 まぁ、男の子が女の子を護りたいなんて古今東西でよく在る話だけど、何故だろうか? 卦韻の思いはとても強かった。


 幼馴染みというのは勿論あるのだろうけれど、それとはまた別の何かが有った様な気もする。


「ねぇ、ケイン」


「うん?」


「折角の再会を祝してダンジョンに行こうよ!」


「は、はぁ?」


 可愛らしくウィンクをしながら美衣奈は言う。


 ダンジョン――読んで字の如く、RPGなんかでお馴染みな洞窟やら何やら迷宮みたいな場所だ。


 此処はファンタジーな世界観では決して無く、紛う事無き地球で現代日本である筈なのだが?


 約一六年前に突如として世界中に顕れた本物のダンジョン、それは余りにも行き成りに余りにも多くのナニかを人々から奪い去った。


 然し、そんな混乱も割りと早くに収拾される。


 他ならない、愛坂惣元と楠葉煉鵬という傑物であるのだとされた二人の漢の手腕によってだ。


 更にはこの事態を予め予想をしていたかの様な迅速に、この事態に深く関わってきたのが冒険者という古くて新しい職業であったと云う。


 冒険者そのものは昔から存在していたのだが、それは飽く迄も遺跡を発掘したり巨山を登頂したりする人間の事で、ダンジョンなんてモノを突き進むファンタジックな職業では無かったもの。


「それでね、私達二人で最近流行りの配信をしようか!」


「ダンジョン配信者に成るのか?」


「そうだよ!」


 翡翠色のポニーテールを振り回しながら笑顔を卦韻に向ける美衣奈、そんな彼女の『配信者』という科白を聴いて驚き目を見開く。


「だけどさ、武器とかどうすりゃ良いんだよ?」


「私達のお父さんとお母さんが使っていたお古を使わせて貰おうよ」


「父さんと母さん?」


「そう。だいたいにして、一六年も前に始まりの冒険者だったのが私と卦韻の両親なんだよ」


「はぁ!? 知らなかったぞ!」


 卦韻はそんな話を聴いた事すら無かったのだ。


 その後、卦韻と美衣奈の二人は愛坂家の邸に置かれている倉庫へと向かうと、その内部の奥も奥の更に隠し階段をさらけ出した。


「って、隠し階段が!?」


 誕生してから一六年の付き合いがある愛坂家、倉庫だって何度も侵入をしていたものだったが、こんなおかしな仕掛けも階段も知らない。


 コツコツと足音を響かせて石段を降りていく。


 春麗らかな暖かさが外では心地好かったけど、階段を降りて行く過程で少しずつひんやりと。


 しかも更に道が有り、其処を進んで突き当たりに存在する鉄扉、鍵を挿して回すとガチャリという音が軽く鳴り響いて扉が開いた。


「割りと厳重なんだな、まさかの鉄の扉なんて」


「まぁ、ダンジョン用に認可をされているとはいえ武具を置いてる訳だから、このくらいはね」


 しかも、地下室であるとは思えないくらいに広々としている。


 ちゃんと電気も通ってるらしく、美衣奈がスイッチを押すと天井に設えていた蛍光灯が点いた。


 しかも意外と明るい。


「これ、剣……鎧……」


 照らされた室内で武器や防具で埋まっていた。


「どうかな、卦韻?」


「圧巻だな……」


 何だか目を惹かれるのは片手剣、強く強く惹かれているその剣に思わず手を伸ばしてしまう。


 それは台座に突き刺さっている、それを右手で引き抜いた。


 見開かれた瞳に剣影が映る。


「それは“聖霊剣クリスタリオン”、今は力を七つに分けられているから大した力は無いけどね?」


「クリス……タリオン……」


 刃には卦韻と美衣奈の顔が照り映えていた。


「剣の力が七つに分けられているってのは?」


「本来のそれは“神剣クリスタリオン”って云うんだけど、力が分けられてとてもじゃないけど神剣なんて呼べない威力しか出ないんだよ」


「どの程度?」


「ん~」


 下唇に右人差し指を当てながら、目を天井へと向けて考える。


「そうだね、某・有名RPGで云うと店売りしてる鉄製の槍くらい?」


「ショボッ! 序盤も序盤じゃないのかそれは」


「だよ? でも、今の卦韻には寧ろ過ぎたる力。普通は檜を削った棒は無いにしても、最序盤なんて棍棒か良くて青銅を鋳造した剣だしね」


「それは……」


 RPGでは順繰りに武器防具を更新していくか、若しくは最初期の装備品で暫く我慢をして、ある程度を進めたら良い武具に替えるかだ。


 まぁ、或いは縛りプレイで最初期装備でラスボスを屠るなんてのも、剛の者なら有るのかも?


 やり込みプレイなら初心者程度だろうけれど。


「ダンジョン探索にこれを使っても良いのか?」


「構わないよ、それは君のだから」


「俺の?」


「そう、ケインのだよ。スッゴい惹かれてたし」


「うっ! それは……」


 図星を指されてしまう。


(にしても、美衣奈って若しかしてわざとあんな『女性です』ってポーズ取ってんのか?)


 両手を後ろの腰に組んで、前屈みに成りながらウィンクすると可愛らしくポーズを取っていた。


「武器はクリスタリオンで、防具はそれこそ初心者用の装備を選んで」


「判ったよ」


 革の鎧と革製の小盾を選ぶ。


「意外とサイズが合うもんだな」


「きちんと綺麗に洗って修繕もしているからね」


 これらは基本的に中古品、当たり前だけど壊れるし汚れる、倉庫へと仕舞った時点で汚れも破損もちゃんと直しているのが当然だ。


「卦韻、どうかな?」


 白いローブ、耳には銀色に紅い宝石が付いているイヤリング、水色のケープを装備している。


「似合ってるな」


「ありがと」


 この倉庫内に仕舞ってあるのは中古品であり、卦韻と美衣奈の両親が使っていた極めて古い初心者から中堅層の装備で、最上位の装備品は於ろか上級装備すら置かれていない。



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