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ヒロインの兄に転生して  作者: 月星 星那


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詠唱

 まずは、母親から聞いた魔法言語について、纏めよう。

 

 魔法言語――それは、魔力を伴った発音により、魔法に特定の性質を付与する言語のこと。

 しかし、これには最も厄介な特徴があり、同じ魔法言語でも、使う魔法の種類によっては、全くの別物になることがあるということだ。


 例えば、火魔法における放出の効果を持つ発音があるとする。

 しかし、それは水魔法では蒸発の効果を持ち、風魔法では回転の効果を持って居たりする。

 だから、俺の扱う雷魔法では、どの発音がどんな効果を持つのかさっぱり分かっていないのだ。

 

 しかも、俺には魔力回路がある。

 母さんの話を聞く限り、これに近い構造を持つ人間は他にいないらしい。

 魔力回路を通した魔法言語の発音が、どんな効果を生むのか――誰にも分からない。


(魔力回路ありの詠唱……これは、完全に未踏領域だな)


 緊張していないかというと嘘になる。

 でも、それ以上にわくわくしていた。だって、詠唱が使えるようになれば、もっと魔法に選択肢が生まれてきて、死から遠ざかることが出来るからだ。

 それ以上の喜びは、どこにある?


(それじゃあ、試してみるか。……しらみつぶしになるんだけどな)


 まずは体に電気を纏わす。

 ぴりぴりとした電気が、体表で細かく跳ねる。

 皮膚の上を走る微弱な雷が、まるで呼吸をするように脈動していた。

 

「ar、ir、ur、er、or……」

 

 発音に魔力を合わせていく。イメージするのは、電気が前方に飛ぶ姿。

 しかし、一向に動かない。


 それは、全身の魔力回路も同じだった。

 回路の中を通る魔力は、一向に動く気配が無い。……少しくらい動いてくれてもいいのに。


「be、ne、me、le,……」


 いや……単音なのが悪いのか? もっと発音を組み合わせて、複雑な発音にするべきなのだろう。

 でも、そんなことをし始めたら、何年が掛かるかわからない。それこそ、十年かかってもおかしくないだろう。


「やめだ。もっと工夫しよう」


 時間に余裕があるのなら、この方法でもいいだろう。けれど、時間に余裕が出来ることなんて、一生来ない。だから、もっと時短で、簡単にできる方法を探っていくべきだ。

 

 詠唱における魔法の変化――つまり、言語によって引き起こされる魔力の変化ということなのだろう。

 だから、逆算すれば、魔法に適応する魔法言語を作ることが出来るはずだ。

 


(……そうだ。順番が逆なんだ)


 今までは、発音に魔力を合わせていた。

 でも、それでは既存の魔法言語に魔力を押し込めているだけだ。

 雷という属性に、火や水の言語を当てはめようとしているのだから、噛み合わないのは当然だ。


(なら、雷に合わせて言語を作ればいい)


 魔法言語は、魔力の流れを形にするための道具。

 なら、魔力の流れを先に決めてしまえば、言語は後から付いてくる。


 それは、他者に理解が出来ない概念かもしれない。

 でも、この方法なら、うまくいくかもしれないと思えたんだ。


 今までは、脳で発音を決めてから魔力を流していた。

 でも、それでは人間の限界に縛られる。


(なら、逆にすればいい。魔力回路に先に動かせて、その動きに神経と喉を従わせる)


 脳→神経→魔力回路。この順番を、魔力回路→神経→喉へと組み替える。

 狂気の沙汰と言われても構わない。もう決めたんだ、後は実行するだけ。


 視界――カット

 聴覚――カット

 味覚――カット

 触覚――カット

 嗅覚……は、そのままでいい。


 魔力回路に集中するために、神経からのフィードバックを一時的に遮断する。

 恐怖も雑念も、全部いらない。必要なのは魔力の流れだけだ。


 最後に、無駄な思考をカット。これで――


 ……


 ……


 ……


 マリョクカイロガミャクドウシ、テカラナニカガトビダソウトシテクル。

 デモ、ソレハカラダノソトデテイカナイ。ナラ、ソレヲオシダスタメニハ……


 これは俺の意識ではない。

 魔力回路の信号が、そのまま意識に流れ込んできているだけだ。

 でも、確かに意味があった。


 あとから気付いたことだけど、これは魔力回路のおかげだった。

 全身をめぐる魔力回路は、自己補助機能を持っており、まるで正解を知っているかのように動いてくれるからだ。

 だから、こんな無茶な方法が出来たんだ。


「――ッ――」


 マダコトバニナラナイ。ケレド、アトスコシダ。


「……m、mitto 」


 その刹那、手から電撃が走り、前方へと弾け飛んだ。


 空気が裂けるような鋭い音が、遅れて耳に届く。

 視界の中心に、細い雷光が一直線に走り、地面を焼いていく。


「はぁ……はぁ……死ぬかと、思った」


 これは比喩でも何でもない。文字通りそう思っていた。

 脳が魔力回路に犯されて、自分の意識を奪っていく感覚。もし、もう少しあの状態が続いて行けば、俺は魔法を使うだけの人形になっていただろう。それほどまでに、危険な行為だった。


(でも、これで、詠唱は完成した)


「mitto」


 もう一度、先ほどの魔法をイメージしながら詠唱をする。

 すると、雷撃がもう一度全方に飛び、目標をしっかりと焼いた。

 しかも、それは詠唱無しの一工程の魔術よりずっと強い。詠唱の有無で、ここまで差が出るとは思わなかった。


 それに、この詠唱の優れている部分は他にもある。

 一般的な詠唱は、イメージを保持するために普通の言語を混ぜて作られている。けれど、魔力回路のおかげで、魔法言語のみで構成された詠唱が成り立ってくれているという点だ。


「次だ。もっと、他の詠唱を作っていかないと……」


 ただし、これは電撃を放つ魔法の詠唱だ。

 せっかく雷魔法という、ある程度の自由度がある魔法を使っているのだから、他の魔法を作って行かないといけない。


 どれだけ、大変な作業だとしても、将来のためには必ず……。


「これさえ終わったら、やっと実践の段階に行けるかな?」


 そんなことを思いながら、もう一度いらないものをカットしていく。

 たとえ、それが危険な行為だとしても、強くなるためには避けることが出来ないから。

 

 

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