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ヒロインの兄に転生して  作者: 月星 星那


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魔法の教え

「お母さん、魔法について教えて!」


 次の日、俺はお母さんにそう頼みこんでいた。

 この世界に生まれたから色んなことを調べて来たが、闘気のような知らないことがまだまだあって、魔力にも知らないことが無いとは保証できなかったからだ。


「魔法? いいけど、シスにはちょっと早いわよ」


 俺の頼みを聞いて、母親は少しだけ眉を下げた。

 教えてあげたい気持ちはあるのに、今の俺にはまだ早いだろう――そんな迷いが、その表情に滲んでいた。


「お母さん、僕はこんなことも出来るんだよ」


 他人に見せるのは初めてだけど、俺は手と手の間に、小さな電撃を走らせてみる。

 それはとっても微弱な電気で、静電気にも劣るほどの電流だけど、魔法であることは変わりなかった。


「えっ?」


 それを見て、母親は驚きの声を上げる。

 目を丸くし、息を呑み、次の瞬間には俺の手をそっと包み込んでいた。


「シス……今の、魔法なの?」

「うん。僕、できるよ」


 すると、母親は俺の体を持って、一気に上にあげた。

 それは、一瞬の行動で、電気を纏っている俺でも反応できないほどだった、


「なっ……」

「凄いよ、シス! 本当に天才だよ! その歳で魔法を使うことでさえほぼ不可能なのに、自力で雷魔法に至ってるなんて!」


 母親は、俺の体を掲げてぐるぐるとその場で周り始めた。

……それは、本当にやめてほしい。目が回る。うぇ、吐きそうになって来た。


「まさか、魔法の才能がこんなにもあるなんて! それなら、じっくりと教えてあげるよ」


 今度は、俺の体を抱きしめてくる。

 口や鼻が母親の胸で圧迫されて、息が出来ない。……電気を撃ってやろうかな?


「それじゃあ、まずは魔法の説明からしよっか!」

「はぁ……はぁ……ありがとう、お母さん」


 ようやく解放されて、俺は大きく息を吸い込んだ。

 肺に空気が入るだけで、こんなに幸せを感じるとは思わなかった。


「ごめんね、嬉しくてつい……。だって、シスが魔法を使えるなんて思わなかったんだもの!」


 母親は頬を紅潮させながら、俺の手を両手で包み込む。この親バカめ、もうちょっと落ち着いてほしい。痛い目に合うのは俺なんだから。

 けど、魔法について教えてくれるのなら、ちょっとは我慢してもいい。


「それでね、魔法なんだけど、シスは詠唱について何も知らないの?」

「知らないってわけじゃないけど、詳しくは知らない」


 母親が魔法を使う時、毎回のように詠唱をしているのを知っている。けれど、それが何のための詠唱なのか、どのような効果があるのかは、何も知らない。

 一応、雷に詠唱を使うとどうなるのだろうかと思い、詠唱らしき言葉を呟いてみたことがあるのだけど、その時は全くと言っていいほど、効果が無かったのだ。そのせいで、詠唱の研究は進めることが出来ず、答えにはまだ至っていない。


「そっか、それなら説明するね。まず、今シスが使った魔法は一工程(シングルカウント)と呼ばれるもの。魔法として成立はするものの、効果としては単純なものしか使えないんだよ。シスの魔術だって、手と手の間に放つことが出来るだけで、狙ったところにぶつけるってことは出来ないんじゃない?」

「えっ? わかるの?」

「うん。一工程は使いやすいけど、ほんとに単純な効果しか出せないからね。かなり工夫すれば、詠唱在りの魔法と五分の効果を出せたりするけれど、それは高位の魔法使いくらいしかできないし、使い手が少ない魔法の一つなんだよ」


 その説明を聞いて、俺はかなり納得できた。

 今まで、何度も魔法を外部に放とうとして、失敗を続けて来た。いくら頑張っても、狙った場所に放つことが出来ず、何あら放出することすら失敗することがある。出来るのはせいぜい身体強化と帯電による触れた物への感電のみ。

 その身体強化は魔術回路のおかげだとするのなら、この魔法の効果は感電しかなかったのだ。


「じゃあ、お母さん。詠唱って……その工程を増やすためのものなの?」

「そうだよ。工程じゃなくて、小節(セクション)と言われるものを増やすことで、魔法の方向性、特殊効果、性質などを変化させていくんだよね。小節が多ければ多いいほど、いろんな情報を追加できるから、強力な魔法に育っていくんだよ。……でもね、ここが魔法の難しいところ。小節を増やせば増やすほど、魔法を成立する難易度が高くなっていくんだ。だから、実践で使えるのはせいぜい三小節(トリプルセクション)くらい。それ以上は、並列詠唱などの技術が要求され始めるんだ」


 母親の説明を聞きながら、俺は指先に微弱な電気を走らせてみた。

 ぱちり、と小さな火花が散る。


(これが一工程。つまり、魔力を電気に変換するだけの単純な処理)


 魔力回路のおかげで、変換そのものは簡単だ。

 でも――


(飛ばすとか、形を変えるとか、性質を付与するとか……そういう情報は一切入っていない)


 だから、俺の雷は手の間で弾けるだけ。外に放とうとすると、魔力の形が崩れて失敗する。


「その小節って、どうやって決めてるの?」

「そっか。一般的な魔法は、詠唱が確立されていて、それに従えばいいだけなんだけど、シスの雷魔法は自分で作った魔法だから、一般的な詠唱が無いんだよね」

「うん」

「それなら、詠唱の詳しい仕組みを説明するね。詠唱ってのは、通常の言語じゃなくて、魔法言語という特殊な言語を使用しているんだ」

「魔法言語……?」


 それは、どういうことなのだろうか?

 母親が魔法を使っている姿は、何度も何度も見て来たのだが、特殊な言語なんて一度も使っていなかった。

 なのに、魔法言語という物が存在するらしい。それは、矛盾していないのか?


「魔法言語ってなに? って思ってるでしょ」

「う、うん」

「ふふっ、やっぱりそう思うよね。私も初めて来たときはそう思ったんから、安心していいよ。魔法言語ってのは、普通の言語とは違って、意味を持たない言語なんだ」

「意味を持たない……?」

「うん、音だけの言語。対応した発音のみに魔力を混ぜることで、その発音は魔法言語として適応されるんだ。例えば『ルーチェ ディ カンデーラ』の――この光、旅人を導き、我が家の灯火とならん――という詠唱だと『この』『人を』『家』という所だけを魔力を交えて発音して、詠唱としてカウントしているんだ」


 詠唱の一部分だけを、魔法言語としてしようしている? 意味は無いと言っていたから『人を』や『家』などの言葉の意味は、魔法に影響を及ぼさないんだろうけど、それなら『この人を家』だけで、魔法が成立するはずだろ。

 なのに、なんでわざわざ長文にしているんだろうか?


「なら、もっと詠唱を短くできるんじゃないの?」

「そうだよ。実際に高位の魔法使いには、そうしている人もいるし。でもね、そんな詠唱で魔法を成立させるほどのイメージをすることが出来る? 少なくとも、私はそれが出来ないから、イメージをしやすくなる詠唱の中に、魔法言語を入れることで、何とかイメージを保てるようにしてるんだ。ちなみに、一節の中に一つの魔法言語が理想って言われていて、今の詠唱は三小節の魔法なんだよ」


 その説明は、かなり説得力があった。たとえ魔法言語に意味が無かったとしても、その発音に気を取られてイメージが崩れてしまっては本末転倒だ。だから、詠唱が長くなるというデメリットはあるものの、普通の言語を混ぜてイメージしやすくすると言うのは良い手段だろう。


 それに、イメージすることさえできれば、魔法言語だけで短い一小節の詠唱を作るだけで魔法が成立するということであり、俺が目指すべきなのは、この域のことなのだろう。


「ありがとう、お母さん! さっそく試してみるよ!」

「ふふっ、力に慣れてよかった。でも、二つだけ大事なことを言ってもいい?」

「大事なこと? 何、教えて?」


 俺が身を乗り出すと、母親は少しだけ表情を引き締めた。

 さっきまでの浮かれた笑顔とは違う。

 魔法を教える者としての、真剣な顔。


「今言った通り、音ってのは最高の媒介になるの。だから、音に魔力が込められてないか感知する術をまずは鍛えなさい。本当に高位の魔法使い……それこそ、宮廷魔法使いやAランク冒険者すらも上回る人たちの中には、楽器の音や物音などに魔法言語を混ぜてくる人たちもいるから。それも、音楽とかだと魔法言語だけで百を上回る小節になっていることもあるから、発動する魔法が国家を揺るがすレベルになることもある。それだけには、本当に注意して」

「……音に魔法言語を混ぜる?」


 思わず、息を呑んだ。

 そんなこと、考えたこともなかった。


「そう。魔法言語は意味じゃなくて音だって言ったでしょ? だから、音楽でも、足音でも、自然界の音でも……魔力を乗せられる人は乗せちゃうの」


 母親は指先で机を軽く叩き、一定のリズムを刻む。

 その瞬間――ぱちり、と目の前に火花が散った。


「今の……」

「そう。これも一小節。音に魔力を乗せるだけで、小節として成立するの。私は魔法使いとして中の上くらいの実力しかないから、この程度のことしか出来ないけど、もっと上の人たちは普通の魔法と遜色ないほどの威力を出してくるよ」


 今の魔法だけで、危険性はかなり理解できた。もし、魔力を感知することが出来ずに過ごしていると、このような隠された詠唱に気付かず、手遅れになることだってあるかもしれない。

 だから、この技術は何よりも重要だった。


「それで、二つ目は?」

「二つ目は、魔法に特化した種族には注意すること。例えば、魔女が扱う原始魔術。魔族の一部が扱う巫術などは人間が扱う魔術を遥かに上回るものだから、出会ったらすぐに逃げること。アレらは、本当に駄目な物だから」


 その時の母親の表情は、明らかに怯えていた。

 原始魔術や巫術の危険性が、言葉よりも先にその顔色から伝わってくる。


 ……きっと、母親は過去にそれらを見たことがあるのだろう。

 ただの噂や知識だけでは、あんな表情にはならない。

 思い出したくもない何かを、無理に押し込めているような――そんな気配があった。


「わ、わかったよ……。話は変わるけど、魔力を感知する方法ってどんなのがあるの?」

「魔力を感知する方法ね……私の場合は、聴覚で感知してるけど、この方法だと一工程の魔術は感知できないの。視覚で感知する人もいるし、肌で感じる人もいる。どれも一長一短で、死角や距離の問題が出てくるから……結局は、自分に合った方法を探すしかないんだよ」


 母親はそう言って、俺の頭はそっと撫でた。


「でも、シスならきっと自分に合った方法を見つけることが出来る。だから、焦らずに、自分の感覚を信じてみて」

 

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