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ヒロインの兄に転生して  作者: 月星 星那


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魔法

(まずは、魔力の特性について理解しようか)


 体内の魔力を弄り回しながら、魔力について理解を深めていく。

 体内、それも魔力回路がある場所ならば、簡単に魔力を操作することが出来る。しかし、体外に放出した瞬間、一気に魔力が薄くなって、ほとんど操作が出来なくなってしまう。

 もう少し魔力量が多いのなら、まだやりようがあるのかもしれないが、今の俺では体外の魔力についてはどうしようもなかった。


(まずは、体内の魔力から。ただ、これはどうやって扱えばいいんだろうか?)


 母親が魔法を使っていた時のことを思い出す。

 これはあくまで仮説なんだけど、あの時の母親は魔力というエネルギーを熱エネルギーに変換していた。つまり、魔力という物は他のエネルギーに変換できる物のはずだ。


……いや、少し希望的観測をしてみようか。

 いろんなゲームで見る魔法は、水魔法のような物質を生み出す魔法もあった。つまり、魔力というエネルギーは、エネルギーだけでは無く、物質にも変換できるのかもしれない。もし、そうだとしたら、もっといい扱い方があるはずだ。


(体内に何かを生み出す……か。うーん、何にしようか? たぶん、元から体内にあるものの方がイメージしやすいから、魔法として成立しやすいよな)


 この一年間で、俺は魔力を扱うコツを身に着けた。

 そのコツとは、確固たるイメージだ。そのイメージとは想像力だけではない。時には、演算をして魔力の道筋を構築することもあった。


 つまり、体内に何かを生成する魔法を作るなら、それは元から体内に存在する魔法であればあるほど成立させやすいということなんだ。


(体内にある物……タンパク質、鉄、カルシウム、水。うん、論外だな。水は良いかもしれないが、もっとわかりやすいもののほうが良い)


 タンパク質や金属、骨などは作れたとしても、除去することが難しい。

 水ならば、まだマシかもしれないが、俺が目指しているのは強くなることであり、水を武器として扱うには、より大きな質量か、高圧や氷のような工夫が必要になってしまう。

 それなら、もっと別のものが良い。


(もっと単純で……もっと扱いやすくて……もっと俺向きのもの)


 そこで、ふと頭に浮かんだ。


(………………生体電気?)


 人間の身体は、常に微弱な電気を流している。

 神経伝達も、筋肉の収縮も、全部電気信号だ。


(これなら……体内に元からあるものだ)


 しかも、電気は形を持たない。

 熱と同じく、イメージしやすい。

 そして――武器にもなる。


(……いける。これは、いけるかもしれない)


 小さい両手を目の前に持ってくる。

 イメージするのはプラスとマイナス。


 右手にプラス。

 左手にマイナス。


 ただの想像ではない。

 魔力の流れをそうなるように組み替える。


(電位差を作る……それだけでいい)


 魔力を右手へ流し、ほんの少しだけ引き込むに意識を向ける。

 左手には逆に、魔力を押し出すように流す。


 しかし――


(そもそも、空気という抵抗があるのに、それを無視できるほど強い電気って、今の段階で作れるわけないよな……)


 空気は絶縁体だ。

 雷のように空気を貫く電流を作るには、膨大な電圧が必要になる。赤ん坊の身体で、そんなものを生み出せるはずがない。


(というか、そもそも魔力を電気に変換出来ているかもわかっていない。だから、別のアプローチが必要だよな)


 イメージするのは、体に帯電させること。

 雷のように空気を貫く必要はない。まずは、皮膚の表面に電気が溜まる状態を作ればいい。これなら、魔力を体外に放出する必要も無いし、魔力を電気に変換させるだけで済むから、絶縁体の心配をしなくていい。

 まずは、魔力回路に魔力を流す。出し惜しみはなし、フルスロットルで。

 あとは、この魔力を電気に変換させるだけ。これについては、演算が出来ず、イメージだけで何とかするしかない。


(魔力を小さな粒に……)


 魔力の流れが、ざらりと粒へ砕けていく。

 魔力を一つの大きな流れとして動かすのではなく、無数の微細な粒子として分解するイメージを持つ。


(粒を流れに……)


 小周天やプラーナーヤーマのようなイメージ。

 それはもう、出来るようになっている。


(流れを波浪に……)


 流れのような小さな力では足りない。

 より大きく、より強く。


(詠唱による補助は出来ない。けれど、こんなところで止まるわけにはいかないんだ!)


 そして、ついに成し遂げた。

 ぱち、と皮膚の表面で光が弾け、一瞬だけ、世界が静止したように感じた。


(……やった)


 それは一瞬だけだったし、その一瞬の魔法だけで、身体の中にある魔力を全て使い果たしまったけど、俺は今確かに魔法を使ったんだ。それは、何が起きても変えられない事実であり、俺がこの世界に刻んだ第一歩だった。

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけだけど、気が緩んでしまう。生まれてからこの時まで、死なないためにずっと気を張り詰めて来た。けれど、どうしても、この成功で気が緩んでしまう。

 

(落ち着かないと、喜んでいる暇は無いんだから)


 作り出せたのは、本当に小さな電流。でも、必死に今の感覚を脳裏に刻み込む。

 たった一度の成功だけだと、その成功に価値は存在しない。再現性を持って、初めて成功という物に価値が生まれるんだ。

 

(……次だ)


 魔力は空っぽで、身体は鉛のように重い。指先すら動かすのが億劫で、まぶたは勝手に落ちてくる。

 それでも、心が静かに脈動していた。

 まるで「続けろ」と言っているように。


(あの感覚……忘れるな。絶対に)


 ぱち、と散った光、皮膚の表面を走った微かな刺激。粒が揺れ、波が重なり、電位差が生まれたあの瞬間。

 それを決して忘れないように、なけなしの魔力を指先に集めた。

 成功は一度では足りない。何度でも、何度でも、形にする。

 

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