後始末
「二人とも、反省は?」
「「ごめんなさい」」
あの後、俺は……いや、俺たちは母親に怒られていた。
「いくら周りに人がいないからってやりすぎでしょ! 特に、電撃のせいで、地面がめちゃくちゃになったじゃない」
「うっ……」
「ほら、シス。言われてるぞ」
「お父さんも! いくら闘気があるからって、あそこまで全力を出さないでいいでしょ! シスはまだ幼いんだよ!」
「はい……」
「まったく……二人とも似た者同士なんだから」
母さんはため息をつきながら、俺と父さんを交互に睨む。その視線は鋭いのに、どこか呆れたような、でも心配しているような――そんな複雑な色が混ざっていた。
でも――
「お父さんとは似てない。こんな理不尽の権化と一緒にしないで」
「あのな……理不尽っていうけど、シスの魔法も理不尽なんだぞ。特に、俺でも苦戦するほどの速さなんて、どうやって出してるんだよ!?」
「反省してない?」
「「すみません」」
なるほど、この家で一番強いのは父親じゃなくて、母親だったんだ。次は、母親に勝つことを目標にしよう。……勝てるォがしないけど。
「リリア、お兄ちゃんみたいにならないでよ」
「だー!」
「えっ?」
「……シスにはこれが一番効くんだな」
妹の小さな手が俺の頬をぺちぺち叩く。
痛くはない。けど、妙に心に刺さる。妹に嫌われるのは、死の次くらいには辛い。
(でも、実際にやりすぎだったから、何も言えないや)
父親と俺の戦った場所は、かなり荒れていて、特に俺の影魔法や魔石を使った雷撃が深刻なダメージを与えていた。
え? これを直さないといけないのか? 土魔法なんて使えないぞ。
「お母さん、これ……」
「もちろん、わたしは手伝わないわよ。土魔法を使うことは出来るどね」
「なぁ、もしかして俺も直さないといけないのか……? 俺は魔法すら使えないぞ」
「冒険者時代に鍛えた闘気があるでしょ。甘えないで」
うん、仕方ないか。
俺の影魔法でも、これはどうしようもないから、地道に直すしかないんだけどね。
そうして、俺たちはシャベルで穴が出来たところを埋めていく。
今の俺は魔力が切れかけていて、電気による身体強化も使えないせいで、こんな単純な動作も、かなりの負担になっていた。
「なぁ」
そんな時、一緒に地面を直していた父親が話しかけてきた。
「俺と戦ってどう思った?」
そんなの、一つに決まってる。
「まだまだ、この程度だと全然足りない」
逆に、この程度で足りると思ったのなら、どうしてそう思ったのか教えてほしい。
「なんでだ? 自分で言ってはあれだけど、俺って冒険者の中でもかなり強い方なんだぞ」
「あのね、僕の戦い方は、お父さんの戦い方に対して相性がいいの。ほら、お父さんの得意なのって、正面からの切り合いでしょ。それに、普段使ってた武器は、木剣なんかじゃなくて、大剣だろうし」
「なんだ、そんなとこまでわかってたのか」
互いの相性などを考慮するならば、俺はもっとスムーズに勝たないといけなかった。
……少なくとも、切り札を使った時点で俺の負けだ。
「でも、勝ちは勝ちだろ」
「それだけじゃないよ。僕はお父さんに勝つために、癖や戦い方をしっかり研究していたし、魔石っていう武器も用意してたんだ。あれって、準備するのに一週間以上かかるからね。手軽に作れるものじゃないんだ」
使った魔石は合計で七個。しかも、そのうちの四つは粉々になって、もう二度と使えない。
これで俺の勝ちだとは、到底言えなかった。
でも、父親の考えは違った。
「あのな、それもシスの強さなんだぞ。まず、俺はそこまで相手のことを分析できない。お母さんは、分析できるタイプだけど、シスほどじゃない。それに、あのカウンターをする魔法とか、自動操作する魔法って、本来の用途は相手の力を分析するための魔法なんだろ? 自分の強みをしっかり伸ばしている。だから、誇れ」
「でも、お父さんに勝つためだけの魔法もあって……」
「そもそも、魔法って簡単に作れるものじゃないんだよ。だから、自分を否定するのはよせ。分析力と対応力、その二つでシスを超える人なんて、見たことねぇよ!」
そう言って、父親は俺の頭をガシガシと撫でる。……大雑把で、少し痛いけど、親としての優しさは伝わっていくる。
「……土が頭につくからやめて」
「あのなぁ、ここは『うん、ありがとう!』だろ」
「そういう所だよ、お父さん」
そうして、父親は俺の頭から手を離し、地面の修復を再開する。
父さんの手の温度が、まだ頭に残って、少しだけ名残惜しい。
……はぁ、認めるよ。
お父さんの子供で、本当に良かった。
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ある森の中
「あーもう! また失敗したー! もっといい方法ないの!?」
長髪の女性が、何かしらの研究を失敗していた。
誰もいない、日の光すら届かない。森の中で――
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ある荒野
「チッ、まだまだだな。この程度で、オレは魔王に勝てねェ」
家が霞むほど大きな魔獣が、何かに押しつぶされたように、全身の血を噴き出して倒れている。
しかし、その肉塊の上に座っている赤髪の青年に喜んでいる様子は無く、ただ自分の無力さを恨んでいた。
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ある宮殿
「フフッ、このワインは中々だね」
豪華な装飾を腰に掛けている青年が、無数の貴族の集まる中、優雅にワインを飲んでいた。
あらゆる貴族の中心にいる、彼が。




