魔石2
まずは、魔石を影で包む。
魔石と影が接した部分から、様々な量の魔力を流し込んでいく。また一気に流し込むだけじゃない。途切れ途切れに流したり、グラデーションのように量を変化させながら流し込んだりしてみる。
でも、一向にうまくいかない。
どうして何も変わらないのだろうか? 魔獣は、あれほど魔法を使ってきたのだから、きっと何かあるはずなのに。
……待て。あの魔獣は、風の刃しか使ってこなかった。それがヒントになるかもしれない。
普通、魔力を持っているのなら、いろんな魔法が使えるはずだ。俺だって、影と雷の二種類の魔法を使っているし、母親も、火以外の魔法も使えるらしい。だから、一つしか魔法が使えないなんて、理屈から見ればあり得ない。
でも、もし魔力が加工されていたのなら?
仮説としては、魔獣が魔石内部に魔力を溜めると、魔石の外殻の構造が、その魔力を風魔法に適した状態へ加工し、フィルターとして外に流すということだ。これなら、一つしか魔法を使えなかったことが説明できる。
そして、魔石内部についてだが、これは貯蔵、吸収、放出だけじゃなくて、増大も含まれているんじゃないのか?
外殻が俺の仮説通りなら、こうでもしないと魔力が増えることなんてありえない。
(そうだな、内部を取り出してみるか)
影の刃を使って、外殻を綺麗に取り外す。魔石の内部は、緑色の内部と異なり、透明な結晶で出来ていて、面と面が向かい合い、光を反射させる構造が次々と重なっていた。
(色は属性を表していたのか? そして、内部はまるで反射鏡。この結晶の成分も分かっていないが、この形は何か理由があるよな)
入射角と反射角を考えながら、魔石内部を目で追っていく。すると、その軌道はまるで円を描くように、魔石内部を周回していて、それは俺の胸の奥にあった魔力の渦に酷似していた。
……円、いや渦というべき流れか。もしかしたら、これが魔力を増大させているのか?
試しにちょっとだけ電気を流してみる。すると、多少の時間はかかったものの、電気はどんどん増大し、やがて俺が最初に付けてしまった切れ込みがあるところから放出された。
おそらく、電気――いや、この場合は魔力を吸収し、一定の条件で放射したのは結晶の性質。
そして、魔力を巡らせて密度を高め、増大させていたのは、面と面が反射を繰り返すこの結晶体の構造だ。
では、魔獣がどうやってこの魔力を体内に貯蔵できていたのかと言えば――それは外殻の機能だろう。外殻に包まれている限り、魔法が成立するほどの量の内部の魔力は勝手に外へ漏れない。逆に言えば、外殻と内部を繋いで能動的に魔力を変換・放出できる仕組みを持たない限り、魔力は外に出せないということだ。
外殻の検証は……俺が人間である以上、難しい。魔獣固有の何かを再現できないのだから、外殻が本来どう反応するのか確かめようがない。
それなら、今は内部の研究を優先すべきだ。
結晶には、魔力を吸収する性質がある。これはもう確定といっていいだろう。……いや、待て。それだと放出する性質が説明できなくなる。
確か、中にある魔力を影空間に取り出した時は、一気に放出された。つまり、結晶の性質は、魔力の流れを促進するのか?
(……内部結晶は、魔力の流れの方向で性質を切り替えているんだ)
魔力が内部へ向かう時は、吸収を促進する。
逆に、魔力が外へ向かう時は、放出を促進する。
だから、切れ込みから電撃が放出された。
あの切れ込みのせいで、外に出る魔力の流れが作られてしまったから。
(なら、それを制御していたのは外殻なのかもな)
次、電気が増大した理由について。
先ほど電気を流し込んだ時、明らかに強くなって放出された。
これについては、明確に理解しなければならない。
魔力が増大された理由を正しく理解してなければ、大きな事故につながるかもしれないからだ。
外側だけを理解して、中身を理解しないなんて、論外に決まっている。
(魔力はなんで増えるんだろうな?)
そもそも、生物はどうやって魔力を溜めているのだろうか?
俺の体の中には、魔力を作っている器官なんて無かったし、この魔石自体にも魔力を作る効果は無い。
なのに、安静にしていれば、上限はあるものの魔力が増え続けていく。
無から生まれるエネルギーなどない。
しかし、魔力は実際に増えている。何故だ……いや、待て。魔力なら、すぐそこにあるじゃないか。
魔力感知が出来るようになってから、何年もたったせいで忘れていた。
でも、最初に感知した時には、明確に理解していたはずだ。
この自然界には、薄い魔力が大量に存在している。てっきり、存在しているだけで、何の影響も与えない物だと思っていたが、もしかしたら……。
(ま、実際に試してみるか)
匂いに注意しながら、結晶に微弱な魔力を流してみる。すると、周囲の魔力が急激に吸収されていき、内部の魔力は増大していった。
普段なら、外殻の存在によってここまで急激に魔力が増えることが無いのだろう。でも、今は外殻が無いから、急速に魔力が増大していく。
(結晶で魔力を循環させていたのは、魔力を吸収する流れを疑似的に作っていたからだったのか……。それなら、納得できる)
多分、外殻の存在理由は、魔法の使用の補助と、魔力の吸収を制限するためだろう。
ここまで魔力の吸収速度が速いと、暴発する可能性が存在するから。
「でも、これは使えるな。勝手に魔力が増幅されていくんだったら、雷魔法の外部電池として使えるかもしれない」
電気の増大、しかも最初の切っ掛けとして少量の魔力を流せばいいから、魔力消費量としてはかなり少ない。
欠点としては、タイミングと指向性。魔石に電気を流し込んだ時点で、俺の制御下から離れてしまうため、操作することが出来なくなってしまう。
(たぶん、完全に制御することは無理だな。でも、ある程度なら影の補助で制御できるはず……)
この結晶の性質は、流れの促進。
なら、影を使って流れを作れ。
「――纏え――」
影鎧……しかし、俺自身が纏うのではなく、結晶に纏わせる。
影鎧の性質はある程度操作できる。だから、疑似的は外角として使うことが出来るだろう。
中で電気がバチバチと唸っている。
でも、影鎧はそれを外に出さない。だから、内部の魔力は逃げ場を失い、影の内側で渦を巻き始めた。
(制御は……ギリギリだな。影の厚み、密度、流れの角度……全部調整しないといけない)
影鎧を通して、結晶内部の魔力の流れが手に取るように分かる。
吸収、循環、増大、放出――その全てが、影越しに伝わってくる。
「――いけ!」
影鎧の一点を、針の先ほどに細く開ける。
その瞬間、内部で渦を巻いていた電気が、一気にその一点へと収束し、空へと飛び立つ。
空気を裂くような鋭い音が、鼓膜を震わせ、疑似的な雷が生まれたのだ。
(まだ戦闘中に扱えるほどの精度じゃない、か。でも、これは使えるな)
魔石を影空間へと収納する。こうすれば、暴走することなんて無いはずだ。
「一個だけじゃ足りないか。もっと魔獣を狩らないと」
そう呟いて、魔獣と狩るために俺はもう一度、遠くの方へ走り出した。




