魔石1
「な、ぜ……」
「……シスって、思ったより馬鹿だったのか?」
帰ってきて、魔獣の死体をリリアに見せたら、思いっきり泣かれた。
何故、どうして……?
それを見た母親には、頭を抱えられるし、父親には腹を抱えて笑われた。……影雷ぶつけるぞ。
でも、そんなことより、妹の機嫌を直す方が重要だ。何とか、俺の評価を元に戻そうとして、近づいたのだが、手で弾かれるという結果で終わってしまった。やばい、このままだと嫌われてしまう。
「あのな、一歳の子供に死体は駄目だろ。何で、喜ぶと思ったんだ?」
「……肉っておいしいから」
「リリアはまだ肉を食えねぇよ」
「あっ……」
その発想は無かった。
もしかして、父親は天才なのか。
「どうしてシスは、魔法のことになると天才なのに、リリアのことになると、こう空回りをするんだ……?」
「地表にてとどろ……」
「待て待て! 影雷はやめろって!」
ちっ、影雷をぶつけたかったのに。どうせ、少し動きにくくなるだけだからいいだろ。
「とは言え、もう魔獣を狩ってくるとはなぁ」
「お父さんに比べたら弱かったよ」
「俺をあんな魔獣と比べるな。……それはともかく、シスの年齢は、魔法や闘気が使うことが出来るようになるくらいの年なんだがな」
「人は人、うちはうち」
「なんで、そんな言葉知ってんだよ……」
前世で散々実感した言葉だ。もはや座右の銘と言っていい。
あ、今の無し。座右の銘は、妹こそ世界一。
「はぁ、シスについて考えるのは無駄になるからやめとくか。それに、魔獣の説明をしてなかったせいで、重要なことを見逃してたしな」
「重要なこと?」
俺は、ミスなんて何もしていないはずだ。
血抜きをしてないと言われても、影空間は状態が変動しないから、そもそも血抜きをする必要が無い。
影空間に関しては、誰にも言っていないけど、状態が良いことは父さんだって気付いているはずだ。
「ミスなんてしていないと思ってるだろ」
「うん」
「確かにミスなんてしていない。でも、これは魔獣を狩った後では、何よりも重要なことなんだ」
そして、父親はとある緑色の石を取り出した。
「何それ?」
「これは魔石と言ってな、魔獣の体内に存在する石で、これには魔力が溜められているんだ。魔獣の取引価格の七割は、この魔石の値段と言っていいほど重要な物でな、取って無かっただろ」
「あっ」
そんなの知らなかった。
でも、知らないでは通用しないことなど、この世には無数にある。
「魔石か……道具とかに利用するの?」
「やっぱ、魔法に関わることは天才なんだな……。ああ、その通り、魔石を使った道具は魔道具と言われていて、生活する助けないなったりしているんだ」
「でも、家にはそんなのないよね。お金ないの?」
「あのな……母さんのおかげで、魔石を使う意味がねぇんだよ。母さんも、冒険者として名を馳せた魔法使いなんだ。魔道具を使う理由がねぇんだよ」
「へー。確かに、魔法について詳しく説明してくれたのは、それが理由だったんだね。お父さんと違って分かりやすいし」
「感覚派で悪かったな!」
魔道具の戦闘への使用……いや、やめたほうが良いか。機械のような繊細な物を戦闘に使うと、壊れる危険性がある。そんなことよりも、魔石の魔力を貯めるという性質について、研究したほうがよっぽどマシだ。
「お父さん、その魔石、僕にくれない?」
「そもそも、シスが魔獣を狩ったんだから、それは当然の権利だよ。……なにか、嫌な予感がするけどな」
「へへっ、ありがとう!」
「今、本当にやばい間違いをした気がするんだが……。やっぱ返してくれないか?」
「ごめん、無理っと」
「あ、逃げるな!」
雷と闘気を纏って、一瞬で移動する。俺は、お父さんにほぼすべての分野で負けているが、速さだけはこの年で上回っているんだ。
本気で捕まえようとしても、そう簡単には捕まらない。体力の差のせいで、逃げきることは出来ないんだけどな。
(ま、父さんもそこまで本気じゃないだろ。俺が強くなってんのに、心底喜んでるんだしさ)
いつもの屋根上に移動し、魔石を観察しながらそんなことを考える。
父親は、新たな魔法、新たな戦術を受ける度に、心の底から笑顔を浮かべていて、心底喜んでいるんだ。だから、俺がもっと強くなることを歓迎しているはず。……たぶん、Mだし。
(そんなことより、魔石について調べないと。魔獣の一工程の魔法について、何かわかるかもしれないし)
見た感じ、魔石は色がついているだけで、特筆する部分なんて何もない。
しいて言うなら、魔石が持つ魔力の匂いがしっかりと伝わってくる程度で、いくら魔力を流そうとしても、無に近しい量しか吸収されない。
中に魔力が溜められていることは伝わってくるんだけど、それを取り出すことも出来ない。
どうやら、魔石の力を利用することは、かなり難しいことで、何かしらの工夫をしない限り、ただの石と大差が無いだろう。
(なら、ちょっとだけ傷をつけてみよう)
「舞え」
厚さの無い影の刃を生み出し、魔石に小さな傷をつける。
すると、その部分から微量な魔力が出始め、まるで空気に溶けるように、ふわりと広がった。
(なるほどな)
魔石は傷をつけることで、魔力を取り出すことが出来るようになる。しかし、傷をつけるという行為をしたせいで、魔力を使わない時でも、どうしても漏れ出てしまい、無駄な消費をしてしまうのだ。
一応、影空間の中に入れてしまえば、魔力の放出を止めることが出来るのだが、それでも使いにくいことこの上ない。
(それに、この魔力を扱うことはできないな)
そもそも、この魔石の中に溜められているのは、あの魔獣の魔力だけだ。いくら魔力回路があると言っても、他人の魔力なんて操れるはずも無く、ただ魔力が漏れていくことを見ることしか出来ない。
それなら、この魔石は何にも役に立たないのか? いいや、違う。そんなことは無い。
魔石の中に含まれている魔力が使えなくても、魔石そのものには活用方法があるかもしれないのだから。
「これは、邪魔だな。――沈め――」
まずは、魔石の中にある魔力を全て影空間に移動させる。
まぁ、影空間に移動させたところで、入れ物の無い魔力は霧散してしまうのだが、そんなことよりも空の魔石が手に入ったという事実の方が、ずっと魅力的だ。
(魔石の外殻から魔力を通すことは出来なかった……それなら、内部からだとどうなる?)
魔石の中に影を入れ、俺自身の魔力を流し込んでいく。
魔獣の魔力が無くなった魔石は、すんなりと俺の魔力を受け取って……いや、むしろ吸い尽くすように。吸収していく。
あいにく、魔力回路がある俺の方が、魔力の支配力は上だったため、魔力を奪い尽くされるということは無かったのだが。この吸収力はかなりの物だった。
外殻は、魔力を微量しか吸収しなかったのに、内部は魔力を吸収する。しかし、先ほど傷をつけた時は、内部に溜めてあった魔力を放出していたのだ。この内部の性質がどんなものなのか予想もつかない。
けど、この性質を理解すると、何かが起きるような気がしたんだ。
(吸収に、放出……まるで、ヘモグロビンみたいだな。でも、ヘモグロビンと似たような性質だとすると、あれほどの高濃度の魔力は溜まらないはず。ちっ、前世の知識はあてにならないか)
外殻の存在理由は、内部の魔力を外に出さないようにするためだろう。まぁ、魔力の匂いがするから、完全に遮断しているわけではないんだろうけど。
そんなことより、魔力を吸収する効果は内部にしかないはず……なのに、何で魔獣はこの魔石に魔力を溜めることが出来ていたんだ?
それだけじゃない。
魔獣は魔法を使うのに、この魔石から魔力を引き出している。でも、取り出された魔石には瑕なんて一つも無かった。
すべてが謎に包まれている。
(でも、それが面白いよな)
壁にぶつかるなんて久しぶりだ。
この一年間、毎日成長を続けていたが、その速度は小さく、納得出来るものでは無かった。けれど、魔石の性質という壁を乗り越えれば、一気に強くなることが出来る。
(なら、やってやるよ)
試行錯誤なら、数えきれないほど続けてきた。
だから、何も怖がることはない。




