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黄色い西瓜の生るころに  作者: ウチダ勝晃


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6/8

六、府警本部での一コマ

 ひと気がないし、暗い取調室などよりはいいから――。そんな理由で職員食堂へ通された僕と若旦那は、警部さんからセルフサービス式のコーヒーをごちそうになりつつ、事のあらましを聞くこととなった。

「やっぱりお前さんのにらんだ通りでな。あの二つの西瓜、同じ物で間違いないという鑑定結果が出た。それにのっとって、いま右京署と本部とで共同で問い合わせに応じてるんだが……」

「あまり良くない意味で点と線がつながってきた、とか言わへんですやろな警部」

「――悪いが、現実ってやつはそういう風に出来てるようだ」

「やっぱり」

 ミルクのたっぷりはいったコーヒーを一べつする若旦那に、そう言うな、と警部さんはなだめるような声音を発する。点と線がつながる、というからには、やはり祖父の件とあの山中の遺体は関係アリ、という具合になる。

「これはまだハッキリとした話じゃあないんだがな。法医学教室で目下複顔作業中のホトケと、過去の行方不明者の中で大倉さんのお祖父さんと接点のありそうなある人物の顔が、かなり相似形を示しているらしい。もっとも、作業が完了してみないことには断定できない、と先生方はいっているが……」

「警部さん、その……」

 まっすぐ受け止めるにはいささか話が重すぎ、僕はおそるおそる警部さんへ疑問を投げた。

「祖父は……何かしらの事件に関係していたということになるんでしょうか」

「む、それは……」

 こちらの表情がよほど陰気に見えたのか、やや引き気味の警部さんの顔をしばらく眺めていると、隣でダンマリを決めていた若旦那が口を開いた。

「直接、間接を問わず関係があったのは確か、という点じゃイエスやけれど、ホトケさまへ手を下した犯人か、という問いかけに関しちゃ、今はまだノーやと思うな。――そもそも例のホトケ、他殺の気配はなさそうなんですやろ?」

「まあ、撲殺の痕跡とかはなかったようだな。毒殺からの遺体遺棄というのは、腐りかけで発見されるリスクがあるからあり得ない、とよく言われるし……」

「だ、そうやで。まだまだ分からんことが多いんや、あまり考えすぎるの、精神衛生上よくないで?」

 まったく、その通りだと思った。まだまだわからないことが多いのだ、いたずらに身内を悪者扱いするというのはさすがに身体に悪い。

「とりあえず、今すぐに明かせるのはそんなところだな。あとはまあ、お前さんでどうにかしてくれ、としか言いようがないな。恨んでくれるなよ、いちおうそういうお堅い商売なんだから……」

「なあに、そないなことはとうの昔に織り込み済みですわな。――オークラちゃん、警部に土産も渡せたし、帰ろか」

 畳みかけるような具合で帰り支度をする若旦那に、僕もあわてて後を追う。と、空のカップを自分の手元へ引き寄せていた警部さんがボソボソと何かつぶやき始めた。

「農学部研究所員だった沼川老人にも会っておかないとな……たしか住所は、古い住所録から変わっていなかったと思うが……」

「――警部、独り言はあまり声がでかいと笑われまっせ?」

「ん? 何か言ってたか、オレ」

「まあ、覚えがないならしょうがないですわな。――コーヒーごちそうさんでした。あと、ありがとさんです」

「なに、日頃のことを思えば――容易いことさ」

 ほんのわずかな間のことに、僕は何が起きたのかよくわからないまま、若旦那共々府警を出た。

 正門を出て十数歩あるいたところで、若旦那が突然、腹のそこからこみ上げるような声をたてて笑い出した。驚いてその場に立ち尽くす僕へ、若旦那はカブリを振って、

「慣れたことでも、あない露骨にシバイされるとおかしゅうてかなんわ。とりあえず、ボクらは警部の言ってたご隠居さんのとこへ行けばいいらしい。どないする? 暇なら一緒に行ってみる?」

「え? あ、ああっ!? そういうこと!?」

 何テンポか遅れて事の真意に気づくと、僕はまじまじ、若旦那の顔をのぞき込んだ。

「全く古い手やで。正面切って教えるのはマズいからって、ようあんなことしよんのよ。まあ、ここまでの実績と信用込みで、あないに親切してくれるんやけどね。ほんで、どないする?」

「うーん、どうしようかな……」

 ふたたび歩き出しながら、若旦那の誘いにどう返事をしたものか僕は考えあぐねたが、

「僕はいいかなあ。じいちゃんの、身内が知らない部分が今度の事件のカギなのはわかってるんだけど……まっすぐ見るのは、なんだか勇気が出なくってさ」

「そう返事するかな、とは薄々思ってたんよ。ええよ、そういうことを人の代わりにするのがボクの役目なんやし。二、三日のうち相棒連れて行ってくるから、報告待っててや」

「――頼んだよ若旦那、名探偵の名にかけてさ」

 軽い肘鉄を入れると、若旦那はアロハの裾をゆらして大げさにイテテ、とポーズを取る。若旦那なりの照れ隠しなのだろうが、なんとなくそれが、今はとても頼りに見えてならなかった。


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