一、或る日の縁側で
この作品は「鴨川浮音」シリーズの番外編として執筆されたものです。当該シリーズをご存じの方は若旦那=鴨川浮音としてお読みいただければと思います。
「どうかなあ、味のほうは……」
「――こりゃ旨い! 後味引くよな酸味がちょーっとだけあるのも乙やね。塩かけて食うンが憚られるでぇ」
「よかった。まずかったらどうしようかとヒヤヒヤしてたんだよ」
ほっと胸をなでおろす僕を前に、夏物の薄い羽織に麻の着流しという、祇園のお茶屋の主人のような格好の友人・若旦那――これはあだ名で、本名はもちろんきちんとある――は長いスプーンを振り、ンなことあらへんよぉ、と言ってにっこり笑ってみせる。
二、三日ばかり続いたスコールのような雨雲が消えて、まだ心地よい程度の暑さが京都の街全体を覆いだした日の午後。僕はちょっとした用事から若旦那を京都市の郊外にある父の実家へと招いた。
そして、すだれを吊るして戸を開け放った茶の間で若旦那が楽しんでいるのは、この家で育てている、まるでレモンのような後味が引く、黄色い西瓜なのである。
一時期流行った、長野産で同じく黄色いのが特徴の「こがね」というのにも食感などは似ているが、酸味では圧倒的にわが家の、名もなき黄色い西瓜に軍配が上がる。
「にしても、こないな旨いもんを育ててた人が、なんで一度も食わんままに亡うなってしもたんやろねえ――」
「それなんだよ。それがずっと気になってて……」
「んで、とっくに試験もレポートも片付いとるボクを呼び出したわけか」
その通りなのになぜか返事がしにくく、黙って顎をしゃくると、若旦那はなるほど、と言って、スプーンを皿のへりに置いた。
「――ざっくりでエエから、話聞かせてもらえるかな?」
それまで、悠然とした具合で西瓜を楽しんでいた若旦那の目が真剣な色を帯びる。やっぱり、呼んで正解だったとすぐにわかった。こう見えて若旦那は、軽いところで失せ物探し、大きなところで官庁の汚職事件などの解決に知恵を貸したことのある、経験豊富な「素人探偵」なのだ――。
話すこちらも、回る舌先へ力のこもるのが分かった。




