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世界一素敵なゴリラと結婚します  作者: 志岐咲香
番外編:禁断のBL本編

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探求心

「あっ、いいね! そのまま動かないで」

「このままか? ちょっと近すぎないか?」

「恋人同士だからそのくらいがちょうどいいのっ」

「……」

「……ハルトが無の表情になってますわ! うふふ、そのままでいてくださいね。今スケッチいたしますわ」

「私も、文章に起こすまでちょっと待ってて!」


 リオスとクロイツナーに見つめ合って静止してもらった。

 私はそれを見つめては文章に書き留めていく。

 レアリィーナさんも同時進行でスケッチを進めていく。


「うーん、もうちょっと雰囲気を出したいな。クロイツナー、ちょっとリオスの顎を持ち上げてくれない?」

「……私がですか?」

「そう。こう、クイッと」

「……」


 渋々といった雰囲気で、クロイツナーは従ってくれた。


「二人とも目を逸らさないで! 見つめ合って……!」


 リオスとクロイツナーが震えてる気がするけど、それはそれで恋情が高ぶっているようで良い。

 やっぱり実物を見ると創作に力が入る。

 実際に見たり、体験したことの方が、やはり文章に生きてくる。



「ねえもっと顔を近づけて……」

「……」

「こっちの方が雰囲気が出ていいかも……」

「……」

「そうだ、服を……」

「……」



 創作に熱が入りすぎて、気づいたら私はリオスのシャツをはだけさせていた。

 クロイツナーにもお願いしようとしたら、リオスが「他の男の肌を見るのは許さない」と言ったため、叶わなかった。


 その結果、リオスだけ半裸でクロイツナーはきっちり服を着込んでいるという、カオスな状況が出来上がった。

 これはこれで色々と想像力を掻き立てられる場面で、結果オーライというやつだ。


 そして、気づけば二人はいつの間にか寝室のベッドの上に移動させられ、私が構図を整えているところだった。

 レアリィーナさんの肩は小刻みに震えていて、かすかに笑いをこらえるような声が聞こえた気がしたが……私の聞き間違いだと思う。

 こんな素晴らしい二人をモデルに、笑うところなんてないのだから。

 二人は、モデルなんて初めてだっただろうに、苦悩の表情で見つめ合って、葛藤の末の恋にぴったりの迫真の演技だった。



 そして、二人の様子を描写しているうちに、ふと疑問がわいてきた。


(男同士って……どうやって愛し合うんだろう?)


 しばらく考えても分からなかった。

 そこで、いつものようにレアリィーナさんに尋ねた。


「男性同士って、どうやって愛し合うんだろう?」

「げほっ」

「……えっ?」

「……」


 珍しくリオスが盛大に咽ていた。

 いつも冷静なレアリィーナさんも、すこし動揺していた。

 クロイツナーに至っては、ひたすら下を向いていた。


「あれ? 聞いちゃダメだった?」

「……そんなことは、ありませんが、かなりその……」

「アリィー、そこまで知る必要はないのではないか?」


 シャツをはだけさせたリオスが、ベッドの上からこちらを向いて必死の形相で説得し始めた。


「なんで? 知らないと書けないよ」

「では、私が資料を準備して参りましょう」


 素早い動きでベッドから離れたクロイツナーが「奥様にご満足いただける資料を準備いたしますので失礼いたします」と早口で言い、有無を言わさぬ速さで退室した。

 後ろからリオスの「お前っ、逃げるな! 自分だけずるいぞ!」という非難の声が聞こえた。


(……何がずるいんだろう?)


「……ふっ……くくっ……ではっ、奥様。スケッチが終わりましたので、わたくしも今日はこの辺でお暇いたします」

「えっ、もう?」

「この絵を早く完成させたいのです。清書して、また持って参りますわ」

「そういうことね! 完成したら見せてね」

「はい。ではまた……」


 そう言って、レアリィーナさんも足早に去っていった。

 最後まで肩は震えていた。

 きっと感動の震えだ。

 よほど感性を刺激されたのだろう。

 わかるよ、うんうん。


 だが、リオスの眉間には皺が寄っていた。

 シャツははだけたままだった。


「どうしたの?」

「いや……なんだか一抹の不安を覚えて」

「あはは。不安を覚える必要ないよ」

「そうだろうか……」

「そうだよ」

「不安しかないんだが」


 私はむしろ、楽しみでしかなかった。


 その夜、使用人伝いにクロイツナーから『奥様にご満足いただける資料』が届いた。

 さすが仕事が早い。


 なお、クロイツナーはいつもは夜遅くまで働いているのに、その日に限って「定時ですから」と早々に帰宅したらしい。

 そのため、資料の説明を直接聞くことはできなかった。

 残念ではあるけれど、いつも遅くまで働いていたから、ちゃんと休養を取ってくれるようになって何よりだ。


 クロイツナーから受け取った資料には、『男同士の愛し方マニュアル』という指南書と共に、奇妙な筒状の物と用途不明の小瓶まで付いていた。

 私は早速、指南書を読み込んだ。


「……えっ!?!? こ、こんなところを……!?」

「アリィー、そこまで知る必要は……」

「こんなこと、可能なの!? え……こんなことまで!?」


 なんだかリオスがしきりに話しかけてきていた気がするが、集中していたのであまり聞こえなかった。

 そこには、自分の常識を覆すほどの新しい情報が詰まっていた。


 すべてを読み終わったあと、私は静かに尋ねた。


「……リオス、ちょっと試させて?」

「……」


 いつも、私がお願いしたことは快く受け入れてくれるリオスが、なんだかすごく苦い表情をしていた。


「え、ダメ?」

「…………アリィー……そういえば君は、日頃から言っていなかったか? 『作家は経験してこそ書ける』と。なら――まず君が経験した方が、説得力が出るんじゃないか……?」

「た、たしかに!!」


 稲妻に打たれたような気付きを得た。

 小説に描写するのであれば、私も経験した方が良いだろう。

 もちろん、あとでリオスにも経験してもらうとして。

 リオスの肩がわずかに下がった気がしたが、気のせいだろう。


 私は指南書にあった『愛し方』を、できる範囲で試してみた。

 もちろん、リオスにも施した。



 それは、とても大変な愛し方だった。


 ……私の愛し方は少々、手荒かったようだ。



***



 次の日、ウィンターガルド公爵家には椅子に座るたびに声を上げる夫がいた。

 隣にいる妻は、ひたすらに謝っていた。


 その数か月後に販売されたスロートン・クピウィーズ名義の三作目は、男性同士の恋を描いた、やや過激な内容だった。

 しかも巻末には、男同士で愛し合う際の注意事項が、なぜか事細かに添えられていた。


 その描写は――まるで作者自身が経験したかのように、妙に繊細で生々しかった。


このあと、活動報告を更新します。

良ければご覧ください。

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― 新着の感想 ―
ずいぶん突っ走りましたねえ! R15に、よく収まりましたねえ!すごい!
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