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四通目の手紙  死者を埋葬するみたいに武器を土に埋めてしまった。

 

 皆はこんな社会が存在するなんて信じられないのかな? 確かに僕の言葉が足りないのかもしれない。でもね、僕なりにこの手紙を通じて一生懸命伝えようとはしているんだ。


 身の回りの、皆の生活を彩っているものごとについてちょっと考えてみよう。ほんの少し前まで、そのほとんどは夢物語だって思われたんだよ。レオナルド・ダヴィンチが今日のヘリコプターそっくりな空飛ぶ機械を設計していた頃、鉄道が初めて考案されていた頃、白い大きな布の上に動く絵を投影出来ないだろうかと話し合っていた頃。そんなの不可能だとか夢物語だとか、いつも人々は決めつけて、その情熱にブレーキをかけていたわけさ。


 同じように、19世紀のフランスには、当時の人々の物笑いの種になりながらも、どんな市民でも一日に一度の温かい食事が与えられるべきだと考えていたあっぱれな空想家たちがいたっけ。


 こんな話をしていたらさらにびっくりすると思うんだけど、キルギシアの総理大臣に会おうとしたら、携帯一本かけるだけでよかったんだよ。20分とたたないうちに僕は彼と話してたんだ。


「ちょっとデリケートな話になるのですが、」「どうぞ。」


「あなたが銃で狙われているのを耳にしたのです「確かに私は殺されているかもしれませんね。でもそれって、デリケートな話題かしら」

それからしばらくして、彼女は何者かに射殺された。

 さて、キルギシアはどうだったかというと、総理大臣が狙われる可能性は完璧にゼロ。


「他の国々では毎日のように銃で亡くなった人々を埋葬し続けるでしょう、私達は逆に武器を埋める事にしたんですよ。そうやって武器や兵器をかき集めた場所がなんかにあるんだけど、まさに墓場ですね。あんな時代が二度と来ないようにという私達の祈りが込められた記念碑なんです。

 ここでは総理大臣というのはボランティアのような職業なんです。政治家には登録しとけば誰でもなれるのですよ。三年ごとに政府が一から組織されるのですから。

 では、それまで政府にいた人がどうなるのかといいますと、第二の政府というものがあって、そこで生活環境や国の組織を改善する業務にあたることになっています。」


 この武器の墓場というのは実に面白いもので、人を殺す道具が地面から半分ほど顔を覗かせているんだけど、それは大地に沈んでしまっているように見えるんだ。


 是非にとお願いして、僕たちはあらゆる武器の墓場の一つを訪れることになった。そこはとても広い場所でね。ありとあらゆる種類の武器が途中まで埋められているんだ。そのどれもが見事に錆に覆われていたよ。ちょうどキルギシアの古い詩人が書いているようにね。



武器には錆を着せればいい

そして鋤には

きらめく光を着せればいい

 


どの武器のそばにもガラスで覆われた掲示板が設置してあって、色々と教えてくれるようになっている。



この機関銃は

八百五十人もの人間を殺害した



この戦車は

二千三千三百もの市民をなぎ倒した。



このタイプの爆弾は

三十万人もの人間を数秒間で殺害する能力をもっていた。



また別の場所には、永久に避難すべき対称として肖像が展示してあった。


何百もの人々が

なくなったり手足を失ったりした

こいつが発明した地雷のせいで



「だけど、どこか強大な国が進行してきたらどうするの?」実に西洋的な発想で、僕はつっついてみた。

 「ラテン語の古い言葉に、「征服されしギリシャ、勝者を征服せり」というのがあります。ギリシャは一端征服されたが、結局は勝者を飲み込んでしまったのです。

どうやって? 文化でですよ。どんな人々が僕達と接することになっても、いつまでも穏やかに暮らすことがどんなに簡単なことか、きっと納得してもらえるでしょう。僕たちはまっているくらいなんです。」


 総理大臣は五十くらいの小柄な男性で、慎ましい服装に身を包んでいた。前髪には白髪が混じっていたけど、それがかえって彼の顔を明るくしていた。


「総理大臣になってからまだ一年と日が浅いですが、私も他のキルギシア人と同じように一日三時間しか働きません。」

「一つの国家というものが、それでうまく回るのですか?」

「私達の原動力となる考え方は、どのレベルにおいても自分達でやるということなんです。実際のところ、住民の一人一人が自分の運命の「作り手」であって、そういった人達が互いに親密に結びついているんです。」


「以前は、金持ちは自分の屋敷に閉じこもっていたものです。彼らは経済的な豊かさに囚われて、意図的にそうでないかは別として、心の安らぎからは程遠い社会を自分達で形成していました。

恐らくは少しでも孤立感を和らげたかったのでしょうね。改革の後も暫くは人とは交わらずに金には執着し続けていたものの、結局はは垣根を取り払って心を開かざるを得なかったんですよ。彼らも新しい人生を大いに楽しもうとしたわけですね。

彼らの広大な庭には誰でも訪れる事ができるのようになりました。かつて金品で埋め合わせていた孤独が今は子供達の声で満たされているんです。」

 

 改革を担う政府のリーダー、つまりは彼の同僚であるもう一人の総理大臣のところへは彼自身が付き添ってくれた。僕達は昼食に招待されていたからね。

 

 僕達が歩いた道路は、何処か広々としていて日当たりもいいし、すっきりとしていたよ。何といっても車が少ないからね。窓の傍にいた人達は総理大臣に挨拶をしていた。


 皆が彼のことを知っているのは当たり前だけど、彼のほうもみんなをしっているみたいだった。ボディーガードや防弾ガラスつきのリムジンなしに出歩くのは怖くないんですかなんて聞いてみようと思っていた自分が恥ずかしいよ。


 僕は改革を担う政府のリーダーにも聞いてみようと思った。実務に携わっている人間が現行の構造を改革するのは至難の業だけれど、制度がうまく機能しているかどうかの見張りを担当する政府であればどんどん改善しているというわけだ。


 僕はこの日の最後に病院を訪れる事になった。そこは何と患者達自身の力によって運営されているんだ。

 軽症の人や治りかけの患者は食事や部屋の清掃を担当する。それから医者は白衣なんか身につけていない。身につけているのは技術なんだ。僕はフランコ・バザーリアの事を思い出したよ。彼は精神病院をなくす戦いに勝利を収め、何万という患者を拘束ベットや電気ショックから開放した人なんだけど、

若い医師たちにこう言ったんだよ。


「白衣なんか着るもんじゃないよ。医者であることは、制服ではなく行動で示すべきなんだから。」


フランコ・バザーリアはキルギシアの名誉市民になっているんだ。


今回はここまで、愛しい皆に抱擁を


 



久しぶりの更新となります。本書の写しで思ったのですが、政府が国民と同じ視点で物事を見つめ、改革を担う、本章でこれが一番印象に残っています。例えフィクションでも本から学べることは沢山ありますね。

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