掌編小説/BLの嵐
音楽といえばクラシックの『愛の挨拶』が好みだったかな。ソニーのウオークマンが使われていた時代、イヤホンをして学校に通ったものだった。そう、僕が君に出会ったのは里山が金色あるいは紅に染まる季節だったことを覚えている。
うっとうしいくらいに長く蛇行して続く坂道、単語帳をめくりながらくだり坂をいく僕を、君の自転車は追い越していった。単語帳をめくりながら歩いていた。何台もの自転車が追い越していく。みなただの風だ。けれど君のときだけは違った。ぬくもりのあるオーラを感じたんだ。
君の軌跡をたどるように、南欧のような、あるいは無国籍風ともいうべき住宅街の路地を抜けて、僕は校門前の交差点まできた。そんなときだった。リムージンが止まってドアが開いた。
「姫さま~!」
……
単語帳をめくっていた少年(役の男)に、自転車に乗った後輩があきれ顔でいった。
「だめじゃないっすか、先輩。『少年愛』がテーマじゃないっすか。自作小説で上を上を目指すのはもう限界ですよ。ここは、流行のBLしかありません!」
しかし。
佐藤はとある深窓の令嬢一筋だった。
中居は筋金入りの佐藤の背中をみた思いをしたのだった。
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季節はめぐった。
ここは東京に本社がある雑誌『東京倶楽部』の編集室。編集長の机の手前には記者やカメラマンの机が並べてあり、並んで座っているのが、記者の佐藤氏とカメラマンの中居氏だった。二人は同じ学校の先輩・後輩の仲で、卒業しても同じ雑誌出版社に勤めることになった。
ちょうど昼休みで、二人はコンビニで買ってきたカップラーメンをすすりながらノートパソコンのキーボードをたたいているところです。
「せ、先輩。死ぬ~。エアコン故障なんとかしてくださいよ~。よくこの環境で、『王子様のラーメン』なんか食べられますね」
「そんなあなたに耳より情報──みーんみーんみーん、あぢぢぢぢぢぢ……」
「や、やめてください!」
「──と、いうわけで、暑中お見舞い申し上げます」
「みゃ、脈絡が……」
(うるせえ。 気合いで乗り切るんだ──)
一同礼!
つづく(はずもない)
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ノート2010/校正20160507