覚書/滅亡文明 ・クレタ
クノッソス宮殿。ギリシャ神話の舞台の一つにもなっている。
エーゲ海文明は、ギリシャ文明成立以前に、エーゲ海の島々や、小アジアに存在した古代都市文明を総称した青銅器文明である。東地中海文明ともいう。クレタ文明、ミケーネ文明、トロイア文明、キクラデス文明がある。
このうちクレタ文明は、エーゲ海南部のクレタ島に存在していた。ギリシャ神話の登場人物ミノア王からとったミノア文明の異称がある。日本で初めて紹介した京都大学の濱田耕作博士は英語風にクリート文明と記事に書いている。この文明はエーゲ海文明の中でも古いほうに属している。紀元前3650年から紀元前1100年ごろに存立した。土器の新旧で年代を決める土器編年から、前宮殿時代、古宮殿時代、新宮殿時代、諸宮殿崩壊後の時代といった四時代があり、文明の最盛期は古宮殿時代と新宮殿時代とされる。
前宮殿時代は、紀元前3650年から1900年までである。地中海沿岸の海洋諸族が、海を渡ってクレタ島にすみつき混血してゆく。次の古宮殿時代に、オリエント風の専制君主制国家を形成する。
古宮殿時代は、紀元前1900年から紀元前1700年までである。自然発生的に、逐次増築してゆく。古宮殿は時代は巨大地震により、一気に崩壊する。新宮殿時代の遺構はその上に築かれた。
新宮殿時代は、紀元前1700年から紀元前1425年までである。強力な専制君主の指導により国土を再建してゆく。クノッソス宮殿他、計画設計された大規模な諸宮殿が一気に建設される。紀元前1400年ごろに、ミュケナイのアカイア人が侵攻し、王国は突然滅びる。
諸宮殿崩壊後の時代は、紀元前1425年から紀元前1170年までである。王国の時代ほどの、精彩はない。ミュケナイの植民地になったのであろうか。
王国最盛期である古宮殿時代と新宮殿時代、東地中海一帯と盛んに交易して潤っている。古代都市文明の特徴は、都市を城壁で囲むものだが、クレタ文明の都市には城壁が存在せず、明るいデザインの建築様式、障壁画に海洋民族の特徴を示している。
文明の衰退理由は明瞭ではない。火山の噴火によって衰退したという説もあるが、森林破壊によって崩壊したという説もある。私は後者だと思う。
森林破壊説というのは、古代文明崩壊の基本パターンだ。都市を造り、都市機能を維持するために、森林を急激に伐採したため、木材供給が不可能になる。木材は建築材であり農耕具の材料であり、燃料である。また、森の消滅で肥沃な土が海に流出してしまい農耕地の作物が育たなくなる。こうして都市機能そのものが維持できなくなり、文明が滅んでしまう事態が生じるのだ。
文明にとどめを刺したのが侵略者であるが、これは必然というものであろう。資源の供給がなくなれば文明は終わる。
了
ノート20120629/校正20160529