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紀行/雪女伝説

    001

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 新潟県で働いていたころの話。冬の職場は夕刻ともなれば真っ暗で、帰路にはよく地吹雪が舞っていたことを記憶しています。そんな雪国での寒い夜には雪女伝説がよく似合うもの。

「――さむいさむい日に、狩りから帰ってきた若者と老父とが、山小屋にたどり着き暖をとろうとしました。するとどうでしょう、がたがたと扉が鳴って急に開くではありませんか。扉を開けたのは透きとおるような白い美女です。美女は老父を抱擁しましたところ、はじめもがいていた老父は抵抗しなくなりゴトンと床に倒れ伏しました。次に若者の番です。美女は若者を抱擁しようとしましたのですが、なぜかためらい。そのまま外に立ち去っていきました。そう、若者が美男子であったからです。そして……」

 さてところは代わって私が居た新潟の職場です。事務所の扉は鬼門方向にあり、その扉が先ほどからがたがたときしんでいます。外は吹雪。やがて、部屋の中に冷気にのった雪が舞い込んできます。みればなんと扉が開いているではありませんか。そして……、

「ああ、ちゃぶいちゃぶい。でも煙草、おいしかったあ」

 といって、お局様が駐車場から事務所に帰還してきました。職場は全面禁煙でしたので、愛煙家は吹雪の日でも外で煙草を吸うのです。お局様が隣の整理場に消えたのを確認した私は、隣の席の監督さんに雪女の話をしました。

 監督さんは大きくでっぱったお腹をさすりながら、

「雪女といったら物凄い美人でしょうが。ありゃ、雪女じゃなくて雪男のメスだよ、メス」

 視線を感じて後ろを振りかえると、隣の部屋からお局様がお姿を現したのです(ぴゅるるるるー)。

 本当にあった恐いお話。

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    002

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 いま信州乗鞍岳高原温泉郷山栄荘にいます。山荘は傾斜地にあり、周辺は切り立った山々や深い谷間に残雪残る早春の風景です。

 前の職場の新潟スタッフとの旅行で十人おり、ご一行様の中で私のブログの存在を知っていたのは監督さん一人だけでしたから、よく宣伝しています。ご一行様の中には、以前ブログで紹介しました「雪女伝説」のお局さまがいらっしゃいました。

 夜中に自家用車をつかって茨城県笠間市から群馬県吉井町自宅へ向かい、新幹線をつかって群馬県の高崎駅から長野県の長野駅へ行き一行と合流、善光寺を詣でた後、スタッフの自動車に乗り松本経由で安雲村の乗鞍岳温泉郷に移動しました。

 車の中で、お局様にブログの紹介をしたところ関心がない様子です。携帯に「隻眼の兎」のイラストを映したとき、 

「なに、これ、へんな兎──」

 と大きな声で叫んでおります。

 夜、パソコンを開いていたら、わが自作小説の壁紙の絵とタイトルをみて、

「『伯爵令嬢シナモン』? 私のことでしょ?」

 いずれにせよ、お局様は、前に書いた「雪女伝説」の存在をしらない様子。しかしながら、これを読んだ昔の職場仲間と電話していると、「○○さんのことですね」という話しがでます。この様子だと当分はばれなさそう。

 さあて、何食わぬ顔で皆さんと朝ご飯に行きます。同じテーブルで隣の席にはお局様が座っています。

「ねえ、きのうのパソコンの絵だけどさあ、モデル私でしょう?」

(しめしめ……)私は完全犯罪を確信しました。

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    003

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 長野県温泉旅行のつづきで、今回のお題はセクハラ。その言葉が定着して久しくなりました。昔の映画に『許されざる者』というのがありましたが、どうもこの世の中には『許されちゃう者』もいるようです。

 前日の宴会の後、二階北側の大部屋で寝ていたのは、〝アラ還〟のダンディー部長、四十代前半のトトロ監督、二十歳になったばかりの雪だるま君、そして私の四人です。私が目覚めると、「朝飯前に風呂に行きませんか?」とナイスバディーのトトロ監督が声をかけてきました。

「行きましょ、行きましょ、ぜひ行きましょう」

 ついでにトトロ監督を少し小ぶりにした二〇歳独身青年雪だるま君も行くことになりました。頭に霜を頂いたダンディー部長はまだお休み中なのでそのままにしておきました。さて、男湯の入り口に着きました。デジカメをもって男湯脱衣場から血相を変えて飛び出してきたお母さんがいらっしゃいます。今回のツアーに参加した通称ドラミちゃんと呼ばれる方です。

「どうしたんですか?」

「ああっ、びっくりした。みんながお風呂に入っているところを記念写真とってやろうかと思ったら知らないおじさんだったのよ」

 そういってドラミちゃんは女湯に逃げ込みました。

(変な人……)

 われわれ三人は服を脱いで早速、露天風呂に入り、思い出話しなどしているとそこに、先ほどのドラミちゃんが入ってきて、「みんな、はいっ、チーズ──」とわれわれの入浴シーンを撮影して逃げて行ったのです。

 そのドラミちゃんを追って、トトロ監督が、「よっしゃ、お返しだーっ! ドラミちゃん、お局様──まとめて激写!」と、露天風呂から飛び出して脱衣場でご自分のカメラつき携帯を手にとって、隣の女湯に突撃して行くではありませんか。

 きゃあああああああああああああああああああああああっ。

(おいおい、ふつう、ほんとにやるかあ?) 

 私と雪だるま君が少し長湯をして風呂場から大部屋に戻ってくると、ドラミちゃんではないところの、小柄で愛きょうのあるハムスターのようなお母さんハム子ちゃんが、ダンディー部長に泣きついていました。

「画像消してくださいよーっ!」

 ダンディー部長は窓際の藤椅子にもたれたまま携帯のモニターを操作して、(あっ、みちゃった)と笑っています。ハム子ちゃんが、

「貧乳のわたしをどうして写すんですかあーっ!」

 といっているのを後目にトトロ監督は頭を掻くだけでした──というわけで今回は、『許されちゃう者』トトロ監督のエピソード(しかし……ただ者ではない)。

     了

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ノート20080411/校正20160506

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