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紀行/ロボット料理店

 日本考古学協会大会の講義聴講のため、マイカーで会場にいった私。ナビがなく、迷ったので十時を回っていた。國學院栃木教育 サンタ―付設駐車場は満杯になっていた。受付嬢が、「南側にありますよ」というので向かう。白髪頭の誘導員がおり、彼の案内で三百メートルほど離れた場所 に駐車した。東大大学院西脇教授の下、シリア学を学んでいるとのことだ。

 午前の講義を聴講する。昼食は場所は限られているとのことで、飲食店マップを配布される。駅前に行くと、自然食こだわりの洋食屋があった。

 厨房に店長兼料理人が一人、店員の若い女性が一人いた。学生アルバイトであろうか。テーブル席と座り席があり、厨房をL字に巡っていて、四十人ほどが座れるだろうか。私は畳部屋である奥の一つのテーブルをあてがわれた。携帯電話で時刻をみると十二時十分だった。

 メニューにあった上州牛のポークカレーとこだわりスイーツに決めブザーを鳴らす。なかなかこないので二度めを鳴らす。店員は私ではなく、後から来た六名様の席三っつを回ってからようやく私のところにきた。

 アイス珈琲がサービスでついていたので、畳部屋からタイル床のカウンターに降りる。ポットの珈琲が切れていた。そのことをいうと、五分ほどしてポットをかえた。

 十二時三十分。客が三十人になる。周囲を見渡せば考古協会大会の関係者ばかりだ。誰のテーブルにも膳はあがってない。十二時五十五分、まだできない。客たちは「あと何分かかるのか?」と問いただすと、店員は、「五分ほどだ」と答えた。

 間もなく午後の聴講が始まる。私は意を決して、キャンセルことにした。珈琲を飲んだから、千円札を準備する。私に連動して、他の客たちも、出てゆく。ただ私と違ってグループだったから、一人が残って、講義後に冷めたのを食べに来るのだと応答していた。

 店主と店員はパニックになっている。いなくなった客のテーブルに、機械的に膳を運んでいた。私が支払いをしようとすると、「ちょっとお待ちください」を連発 するだけだ。結局、十三時十分まで待って、千円札をレジにおいて立ち去ることにした。厨房を覗くと、私が注文した膳は準備すらされていない。他の客たちは 炒めもののポークソテーが多い。こっちは作り置き可能なカレーとケーキだというのに。

 仕込みをしていないくせに、量産しようとしたからこ うなるのだ。戦争では逐次投入は無能指揮官のなせる業だとされる。こういう厨房で、仕込みをしてなかったとすれば、逐次投入する形で料理を配膳し、その一 方で仕込みをしておくしかなかろう。こういう臨機応変が店の盛衰を分けるような気がする(紳士淑女が客で良かったね。誰もキレてはいないみたいだよ)。

 なんとなく、店主と店員の二人は、私が去った後のテーブルに、カレーとスイーツを並べたような気がしてならない。

 講義のあと駐車場に行く。無料だと思ったら、民間駐車場で有料だった。ただ値段は半日五百円という激安。

「耳が遠くなってね、でかい声で頼むよ」

 応対した陽気な老管理人は九十歳、元高校教師で群馬出身とのこと。群馬ナンバーのプレートをみて嬉しそうに、「大会に出たのかい。四百円でいいよ」と答え、 誘導してくれた。それから、「この界隈でこれだけの人が押し寄せるのは滅多にないことだ。駐車場も大わらわさ」と笑っていた。

    了

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ノート20111021/校正20160508

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