紀行/コンビニ強盗
なかなかと不便なところでバスの接続が悪い千葉県の内陸部に引っ越した。引っ越したとはいっても感覚的には仮住まいで、何年かたったら故郷に帰る頭でいる。道路は広くなったり狭くなったり、思わぬところでクランクする。街に出ると信号機ばかりがやたらある。そういうわけで、食料ばかりはやたら買い込む羽目になるのだ。勤務先の倉庫には掘り出したばかりの人骨があり、奥様方が慣れた手つきで、埴輪の破片なんかと一緒に洗ってくれている。私はそういう骨やら埴輪の写真を、花や小鳥や美女をとるかのように撮影していたのだった。
高台でピーナッツ畑ばかりがある町だ。町内放送がやたらに流れてきて、アルツハイマー化したお年寄りが徘徊し、迷い子となる。それでお心当たりはないですか? という問いかけが毎度あり、半日もしないうちに、無事見つかりました。ご協力ありがとうございますという御報せが流され、奥様方と、「よかったですね」という話になって退勤時間を迎えるのだ。
梅雨時、出勤途中、朝八時に開くスーパーで、パスタを買った。昼休みに車でアパートに帰り、茹でた。そいつをオリーブを敷いたフライパンに載せて、ベーコンやら、先に茹でておいたホウレンソウのぶつ切りを加えて、岩塩・胡椒・バジリコなんかで味付けする。家内が紅茶を入れてくれたので飲んでいた。そこで町内放送が流れ出した。台風直後の風で訊き逃したやつだ。
「八時十分にスーパーに強盗が入りました。犯人は拳銃を所持しており逃走中です」
家内が青い顔になって、「いつも行くスーパーじゃない」といった。
「あ、あと数分出るのが遅れたら、強盗と鉢合わせになっていた。――というか、強盗はすでに店内にいたのかもしれない」
そんな話になった。私たち夫婦はパスタを口にした。家内がいった。
「オリーブ油でパスタを炒めるといい香りになるわよね」
「いい香りになるね」
「どう、紅茶は?」
「オレンジペコだね? 美味しいよ」
「ああ、気に入ってくれて良かった」
私は午後また、骨やら埴輪の写真を、花や小鳥や美女を撮るかのごとく、出勤した。
夕方、町内放送で犯人が捕まったことが知らされた。
骨を洗っていた奥様方が、「犯人が捕まってよかったですね」「ほんと、そうですね」と笑っていった。
私は帰ってからまたフライパンにオリーブ油を敷いたパスタを炒めた。
了
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ノート20120620/校正20160508