読書/民話 「猫踊り」 ノート20160906
小林金次郎ほか
『福島県の幽霊』
歴史春秋社1981年
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概要
福島県は、会津地方・中通地方・浜通り地方の三地方がある。本書では人口の多い中通り地方を県北・県南とさらに分け、これら地域別に、近世から現代に至る怪談話を扱っている。どこにでもあるような物語たち。個人的に興味が惹かれるといえば、妖怪と鬼に関しての話題だ。時代が新しいと妖怪や鬼というのは出没しないようで幽霊ばかりになる。唯一というか、中世的な形状を残す話があったのでご紹介する。県北、化猫についての話題だ。
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物語
小林金次郎「猫踊り/伊達郡月舘町」本書206-207頁
山の中腹にある、一軒家に、養蚕で生計を立てる婆様がいた。婆様は、雌猫を飼っていて、身よりがないものだから娘のように可愛がった。
猫を飼いだしてから、十年以上も経った。婆様もいよいよ年老いて死期を悟り、枕元にちょこんと座った猫に、ほかの家にゆくように申し渡した。
猫は悲しげに家をでた。
婆様は気丈に振る舞ったが、猫がいなくなると、寂しくて余計に衰弱した。
それからほどなく。
十七くらいの娘がやってきて、(一夜の宿を借りた。きけば身よりもないというので)置いてやることした。娘は、日中、月舘や掛田といった近隣の町にいって、角付けで三味線を弾いた。そして夜は老婆の世話をした。
娘がよく稼ぐので、婆様は栄養価のあるものをどっさり食べることができ、みるみる体力が回復していった。
娘の芸は評判になり、あっちこっちから引っ張りだこ。そしてついには舞台にまで立つ。娘は、弾き語りをしたかと思えば、下駄ばきで綱渡りをするなんて軽業までもやってのけた。
婆様がすっかり元気になったので、娘はまた元の猫に姿を変えて、それからも仲良く暮らしたとのことだ。
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所見
古代・中世の猫は、悪魔の化身たる鼠を食べてくれる神獣だった。まずは寺院で経典を守り、次いで穀物倉を守るようになった。近世になると、寺院が、僧兵を嫌う江戸幕府の統制があって全国規模で弱体化する。それにしたがって祠をつくって祀っていた猫を崇めなくなった。終いには年を取った猫は化猫「猫又」になって飼い主を食い殺すという俗信まで登場する。この話は近世ではなくて、ちょっと中性的な香りがする、心優しい物語だ。
ノート20160906