読書/『中世の城日記・ドービー少年小姓になる』
読み聞かせをするような子供が家にいるわけではないのですが、昨今、近所の図書館に行くと決まって絵本を借りてきます。頁を開いてみると、わっ、と飛び込んでくる鮮やかな景色が楽しいではありませんか。
借りてきた絵本には、『ピータービット』や『ダヤン』といった擬人化した動物を主人公にした物語のシリーズ、『塩の話』や『中世の城日記』といった教養系の読みきりものがあります。このうち中世ヨーロッパを題材とした、『中世の城日記』がもっともお気に入りです。
『中世の城日記』の主人公トビー少年は、慎ましやかな荘園に暮らす騎士の跡取り息子でした。ある日、立派な騎士になるための修行に、伯父さんの荘園に奉公にだされます。当時の騎士の子供は、有力領主の家で、騎士として必要な学問やマナーを学ぶ習慣があったからでした。
さて内容は……。
トビィー少年の伯父さんは男爵でいくつもの荘園をもった有力領主でした。トビーは男爵の城で1年間、寄宿しさまざまな修行をします。僧侶の先生の体罰を受けながら勉強し、愛想のない代官から武術を修得し、実の姉のように優しい従姉からマナーを学びます。
そんな1年の間には、賓客をもてなす森での狩り、一騎討ちで盛り上がる武術大会、麦の収穫、そしてクリスマスといったイベントが繰り広げられていきます。
物語で最も印象に残った場面は武術大会で、人馬ともに重厚な甲冑で装備した騎士たちが模擬戦を繰り広げます。模擬戦では、主人公の伯父さんが、あまりにも激しい格闘で、兜がひしゃげてとれなくなり、鍛冶屋がハンマーで叩いて外してやるシーンがありました。また来賓の伯爵は弾き飛ばされて肋骨を折る重傷を負ったりします。
――このようなシーンは映画や概説書でよくみたものですが、絵本のクリアーな色彩が異様になまめかしく感じました。どうしてそこまでやるのだろうか? ネットで関連資料を検索したところ、往事のケルン武術大会では、3千人の騎士が集結して激しく技を競い、死者60人を出したという記事にあたりました。理由は、このような武術大会の来賓には裕福な女性領主もいて、優勝者を夫に迎える例も多かったのだそうで、いわば逆玉狙いですね。どうりで。
トビー少年が綴る物語はリアルで、スリリングな展開をなし、さらに美しい挿し絵がつくため飽きさせません。ファンタジー小説より何倍も面白いです。お勧めです。
了
引用参考文献
リチャード・プラット(文)・クリス・リデル(絵)・長友恵子(訳)『中世の城日記・少年トピアス小姓になる』岩波書店 2003年(定価2400円)
ノート20090101 /校正20160506