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読書/G・L・ベル 『シリア縦断紀行』

挿絵(By みてみん)

晩年のG・L・ベル

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 ガトルート・ロージアン・ベル(1868~1926年)。

 聞き慣れない人物。この方は第一世界大戦の前後に活躍した英国女性です。考古学者、探検家。はてはイラク初代国王ファイサルの側近となって辣腕をふるい、バグダッドで生涯を閉じます。当時のあだなは、「女官長」、「無冠の女王」。後世の辞書(ラルース百科事典)をして、「女性版T・E・ロレンス」ともいわしめています。ロレンスとの違いは戦闘経験がないことくらい。

 ベルは北イングランドのダラム州に生家があり、祖父は男爵、父親は勲爵士サーの称号をもつ産業資本家でした。幼少期に実母を亡くし、伯爵夫人の称号を持つ女流作家レディー・フローレンス・ベルに育てられ学問に目覚めます。

 ミッションスクールからオクスフォード大学に進み歴史学を修得。そう、映画にもなった『アラビアのロレンス』もオクスフォード大学で歴史学を修得していますから、ベルは先輩にあたりますね。ロレンスの著書『知恵の七柱』にも、彼女の名前が記されています。

 ベルは、ロレンスよりも二十歳年長。大学在籍中まで、両親のいいつけをよく守る、いい子を振る舞っていた令嬢は、大学卒業後、一変して探検家となり、中東シリアの各遺跡を、砂漠の民とともにラクダで巡って詳細なノートをつづっていくのです。この変貌には、「あのおとなしいベルが……」と家族も驚いたといいます。

 ここに紹介します著書『シリア縦断紀行』は、ベル、最後の探検。1914年、第一次世界大戦勃発直前が冒険の始まりです。

 ダマスクスで、駱駝17頭を購入、現地ガイドを雇って出発、豪族ラシード家本拠地ハイールで軟禁状態に置かれたのち、バクダットに転進し、ダマスクスへ戻る四ヶ月半の大旅行でした。

 第一次世界大戦でアラビアのロレンスも参謀となったイラク王国初代国王ファイサル。戦後、国王の擁立に重要な役割を演じ、国王から絶大な信頼を受けますj。ベルは、得意の語学力と、外交術を駆使して、国境線の線引きを主導しました。

 イラクという新国家を樹立させ、新国王ファイサルに忠誠を示し、「私はイラク人」と断言。亡くなるとバクダード郊外英人墓地に葬られます。ベルに恩義のあるファイサル国王は、バクダードの考古博物館の主翼を「ガートルード・ベル・ルーム」と命名しました。また当時の英国国王ジョージ五世も、ベルの両親に丁寧な弔辞を送っています。

 現在、ベルが探訪したサファーの荒れ野の西方には、ハイウエイが建設され、著書に記載された遺跡や村のいくつかは、開発と風化で消滅しているとのことで、この人の記録は当地の研究をする上で、とても貴重な資料となっています。

 女性探検家は、アラビア語にも堪能で、著書の随所で、アラビアの詩人たちの詩を紹介していきます。美麗な散文調の著書に引用された詩の数々は、イスラム戦士が陣地の宴席で詠んだ〝カブレット〟と呼ばれる詩です。凛として優美な作風は、日本でつくられたあらゆる詩を凌駕し魅了させられました。

 ベルは二回、世界周遊の中継地点として、日本を訪れています。日英同盟締結後の1898年と1903年です。第二回世界周遊では、弟を伴って、エドワード七世のインド皇帝戴冠式をデリーで観覧。中国を周遊し、その汽車の中で日本語を勉強しました。門司に上陸し、陸路を鉄道で、宮島に着いたときには、「重たい鞄を駅に置きたい」といえるようになっていたとのことです。驚異的な語学修得能力の持ち主で、ラテン語、独・仏・伊語、アラビア・トルコ・ペルシャ語までも修得していたといい、超弩級の才媛でした。

 58歳で亡くなった死因は、ヘビースモーカーであったこと、睡眠薬の常用過多でした。

     了

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ノート20100207/校正20160508  

G・L・ベル『シリア縦断紀行 全2巻』平凡社1994年

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