表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/100

名詩/ジャリ 「臨終の子守歌」

 吸血鬼が襲い掛かってきたかのようなおどろおどろしい詩。これは、十九世紀初頭、三十四歳の若さで結核により亡くなったものの、世にその才能を知らしめた、作家アルフレッド・ジャリの詩である。この詩人は、『アーサー王』や『トリスタン』といった、英国先住民・ケルト人と同系であるブルターニュ地方の出身。死の床の断末魔にあえぐ、鬼気迫る様であるとともに、静かに死を受け入れる、潔さというか、崇高ささえも感じる次第。ざっくり和訳。

.

  アルフレッド・ジャリ

     「臨終の子守歌」

.

 寝室にいると壁掛けの絵が陽射しのように思えてくる。

 毛布のなかで身体に抱きついていた幽鬼めが、すっくと半身をもち上げ、北斗七星が照らした満月みたいな額に収まった絵では、ヴァンパイアが息をひそめ、蜘蛛がか細い腕をだし這いだしてきて、青ざめた私の吐血した溜まりを嘗めまわしている。

 私は両手を立てて宙を掻き廻し、ヴィロードの投網を放つのだけれども、もどかしく指に絡みつき徒労に終わる。

 誰がフクロウの鳴き声のような笛をわが喉に隠したのだろう。

 群れた蝶は皆、コオロギの羽をつかんで、壁掛けの花の絵に舞い飛んで吸い込まれてゆく。

 黄色い祠が、瓦ぶきの屋根でパラパラとカードを切っている、深く眠る平べったい天井から、剣が雨アラレと落ちてきても、どうか私に痛みを与えないで欲しい、クラゲの触手が息絶えた身体に皮膚を透かして通り抜けてゆくまで。

 黒タコどもめが寝台の周りで触手をつないでロンドを踊るとき、運命は炎と燃え上がるキャンドルから、脈打ちながらシトシト雫をこぼしてゆく。

 ほどなく。

 長いカーテンを身にまとった幽鬼どもが両足を浪にユラユラさせて泣きだし、さざ波が、兎の螺旋を描く耳穴から、僕の唇に飛沫を吹きかけてくることだろう。――そのとき私が、どうにか、部屋に漂うパステルの匂いを嗅ぐことができたとき、ふっと、腫れた膝を締めつけていた爪鉤が外れて楽になれることだろう。

 寝間着の袖が日曜の鐘の音をのせた風に煽られはためき、棺桶の担ぎ手たちが、疲れ切った腕で舌をだした蜘蛛の彫られた弔鐘を鳴らしたとき、太陽が大地に沈んでゆく空のもと、薄絹をまとった死者の顔を目に浮かべることができる。

     了

.

ノート20160114/校正20160510

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ