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名詩/ボードレール 「酔え」

   ボードレール「酔え」

       三好達治訳

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 常に酔っていなければならない。それこそは一切、それこそ唯一の問題である。汝の両肩を圧し砕き、汝を地面の方へと圧し屈める。怖るべき時間の主にを感じまいとならば、絶えず汝を酔わしめてあれ。

 さらば何によってか? 酒に酔って、詩によって、はた徳によって、そは汝の好むがままに。

 もし時として、宮殿の石階の上に、濠端の緑草の上に、或いは室内の陰鬱なる孤独の中に、汝が目覚め、既にして陶酔の去って消えゆく時、かのすべて過ぎゆくもの、嘆息するもの、流転するもの、歌うもの、語るもの、風に、浪に、星に、鳥に、大時計に、問え、今は何時であるかと。その時、風と浪と星と鳥と大時計とは汝に答えるであろう、「今こそ酔うべきの時なれ! 虐げらるる奴隷となって、時間の手中に堕ちらざるために、酒に酔って、はた徳によって、そは汝の好むがままに、酔え、絶えず汝を酔わしめてあれ」

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(ボードレール 『巴里の憂鬱』《三好達治訳 新潮文庫 1951年》所収)

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 作者、シャルル・ボードレール(1821-1867年)は典型的なフランスの詩人だ。子供の時に実父を亡くし、母の再婚で傷ついて、マザコンになった。学校での成績はトップクラスで法律学校に進学。そこで出会った文学青年親友の影響で詩作を始めた。ほどなく、ナポレオン三世が皇帝となる二月革命に参加したものの政治から感心が遠ざかった。やがて養父が亡くなり遺産を相続すると、放蕩を始め、心配した親族によって無理矢理新大陸ゆきの船に乗せられたもののフランスに逃げ帰った。晩年は梅毒にかかり、母親の付き添いで入院し亡くなった。――憂鬱メランコリックな作風であることから、憂鬱の詩人と呼ばれている。

 代表的な著作は、『悪の華』(1857年)、『巴里の憂鬱』(1869年)。『悪の華』は、「芸術は観念的であり象徴的であらねばならない(――いいかえれば、非科学的・非論理的でシンボリックで印象的な存在が投影されなければ芸術にあらずということなのか)」というモダニズムという文芸運動の先駆けとなった。

 『悪の華』は当時のカトリック教会の怒りを買い発禁処分となった。また、本作を所収した『巴里の憂鬱』は生前の刊行物ではなく、詩人の死後、作品が編集されて世に流布されるようになったものだ。

 それにしてもなんと悲しみにあふれていて退廃的な詩風なのだろう。ここで紹介した「酔え」では、とても美味しそうに飲んでいるとは感じられない。――フランス映画のどんよりしたムードは彼のメランコリックな詩風が原点なのだろうか。興味惹かれるところだ。

 訳者の三好達治(1900-1964年)も、けっこう有名な詩人で、日本ではボードレールよりも耳にすることが多いことだろう。

 さて。

 夜中に目が覚めた私は、風呂に入ってからトーストの耳を肴にウィスキーを引っかけつつ、昨年、古本屋で買った詩集を開き、〝酒〟に絡めて、二度寝前の一筆をした次第。

     了

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ノート20160226

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