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随筆/美文作成 『文体診断ロゴーン』

『文体診断ロゴーン』というサイトがある。自分の文章をブログなどから転載すると、文章力を診断してくれる機能をもつ。「文章の神様」と呼ばれる志賀直哉と、太宰治の文豪二人を例に挙げてみたい。

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 『文体診断ロゴーン』

  http://logoon.org/

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まず志賀直哉。

「謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山がはっきりと影を映している事に気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上がって来ると、米子の町が急に見えだしたので初めて気付いたが、それは停止することなく、ちょうど地引網のように手繰られて来た。地をなめて過ぎる雲の影にも似ていた。中国一の高山で、輪郭に張切った強い線を持つこの山の影を、そのまま、平地に眺められるのを希有けうの事とし、それから謙作は或る感動を受けた。」(志賀直哉 『暗夜行路』より )

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文章評価 /評価項目評価とコメント

1 文章の読みやすさ……D 一文がやや長い

2 文章の硬さ……………A 適切

3 文章の表現力…………A とても表現力豊か

4 文章の個性……………A とても個性的

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つぎに太宰治。

「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。」(太宰治『走れメロス』)

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文章評価/評価項目評価とコメント

1 文章の読みやすさ……A とても読みやすい

2 文章の硬さ……………E 文章が固い

3 文章の表現力…………A とても表現力豊か

4 文章の個性……………A とても個性的

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志賀直哉と太宰治を比較すると、読み易さで志賀がD、太宰がA。柔らかさで志賀がA、太宰がE。美文にするには易さか柔らかさのどちらかを取捨選択していることが判る。志賀は読みやすさを捨てて文章を柔らかくし、太宰は逆に読みやすくする代わりに文章が硬くなっている。要は文章を長くすると読みにくくなるが文体は滑らかになり、短くすると読み易くなるが文体が硬くなるということだ。文章表現力・個性というのは、ボキャブラリーの豊富さというところであろうか。それでは、文豪二人の名文と拙文とを比較してみるとしよう。

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拙文。

「大唐の都長安は、中央の朱雀門街を挟んで東西に各五十四坊を数える条坊都市で、四辺を囲む城壁内部の条坊をも牆壁で仕切っていた。刻限となれば各条坊の門は閉じられ市民はそれまでに帰宅せねばならず、うかうかとしておれば締め出されてしまう。/東市は九坊からなり、軒を連ねた商店街には、畿内で産する穀物から、織物や陶磁器類などの生活雑貨、全国各地から取り寄せた特産物の珍品が並び、合間には花街やら飲食店も混在している。」(奄美剣星 『火車』)

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文章評価/評価項目評価とコメント

1 文章の読みやすさ……C 一文がやや長い

2 文章の硬さ……………C 適切

3 文章の表現力…………A とても表現力豊か

4 文章の個性……………A とても個性的

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う~む。文豪二人と比較して拙文は半端。美文は長文か短文かの思い切った二者択一が肝心。

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 ここで川端康成。

ノベール賞の文体だ! ――でもどうせ書けっこないから、絶対に真似するな、とも添削講座講師から助言を受けた名文。

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「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、『駅長さあん、駅長さあん。』」

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文章評価/評価項目評価とコメント

1 文章の読みやすさ… A とても読みやすい

2 文章の硬さ …………B 文章がやや柔かい

3 文章の表現力 ………A とても表現力豊か

4 文章の個性 …………A とても個性的

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データを公開して様々な方からご意見が寄せられた。詩作をなされている方・あおいさんがおり、A×4というスコア。その方の詩『Rouge』がヒントになった。

  http://ajisai-to-sizuku.image.coocan.jp/poem/subtle/rouge.html

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なるほど素晴らしい詩で。(内容は、詩人が部屋に入る。すると、恋人は鏡台の椅子に腰かけている。口紅を塗っている。詩人に気付かぬほどに、夢中になっている。一緒に暮らしているけれど、そんなところは見たことがない。美しい。釘付けだ。やがて彼女は気がつき恥らって、鏡の間から逃げてゆく。けれども詩人のなかには姫君の肖像画が残された)というもの。

 小結。

究極の美文は、韻を踏んだ詩のような文章らしい。なるほど川端の短編小説の本質は、小説ではなく詩であると評されるところ。納得。私は各位のご意見を踏まえつつ試行錯誤、あおい様の詩を分析、要旨を書いてみた。するとAAAA。

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A×4の法則

センテンス20前後にして語尾をそろえる。「~だ・~だった」調、「~である」調、「~です・~ます」調。「~だ。~だ。~だ。~る。~だ。」というように、一文節で強調するところだけの1語尾だけ「る」とするのも効果的だ。

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これに対する反論。

ネット上の知人には出版界の人で作家様や編集の方もいらっしゃる。紫草様もその一人だ。曰く、「オールA状態で小説を書くことは、おっしゃるようにナンセンスで、文豪たちのように、A■AA、■AAAといったように、汚しがあったほうが、小説としては読みやすいという結論に達しました。昔日、オールA状態だとおもわれる、中堅作家の小説というのも、読んだことがあります。その後どうなったやら。明治の文豪にして、名文家とされる森鴎外の『暗夜行路』が、CCAAだったような。……古い作品ほどに、美文のセンスも現代とは異なっているようです。……確かに、句読点である程度を判断されているようですね。オールAが、あれ? って思うものだったり、ただ全体的に文体が固いというのはあるようです。 まぁ、それを個性ととって下さる方もいらっしゃいますが…」とのこと。

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紫草様のご意見は尊重しつつ、わが悪文『火車』を校正する。

原文:文章評価CCAA

「大唐の都長安は、中央の朱雀門街を挟んで東西に各五十四坊を数える条坊都市で、四辺を囲む城壁内部の条坊をも牆壁で仕切っていた。刻限となれば各条坊の門は閉じられ市民はそれまでに帰宅せねばならず、うかうかとしておれば締め出されてしまう。東市は九坊からなり、軒を連ねた商店街には、畿内で産する穀物から、織物や陶磁器類などの生活雑貨、全国各地から取り寄せた特産物の珍品が並び、合間には花街やら飲食店も混在している。」

   ↓

校正後:文章評価:AAAA

「大唐の都長安は、四辺を囲む城邑だ。内部の条坊をも牆壁で仕切ってあった。市街地の中央部を南北に貫くのが朱雀門街だ。通りの東西には、それぞれ五十四坊が存在していた。刻限には、各条坊の門は閉じられるので、市民たちはそれまでに帰宅せねばならい。うかうかとしておれば締め出されてしまうからだ。東市は九坊からなっていた。軒を連ねた商店街には、畿内で産する穀物、織物や陶磁器類などの生活雑貨、そして全国各地から取り寄せた特産物の珍品が並び、合間には花街やら飲食店も混在していた。」

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ノート20100622/校正20160508

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