随筆/在原業平・平安時代スーパーアイドル
平安貴族・在原業平は、「本朝一の色好み」というキャッチフレーズでご存じの方もいらっしゃるでしょう。『源氏物語』の前に描かれた『伊勢物語』の主人公と目される人で、実在の人です。この人の役柄は、放浪の貴公子、吟遊詩人とでもいいましょうか、能舞いの主要登場人物にもなっている、スーパースターなのだそうな。
業平は、皇位継承をめぐる争いにおいて、天皇の地位を剥奪された皇族の家系の子孫で、この人の代になって臣籍となり一介の貴族となりました。若いとき、朝廷に出仕するのですが、しばらく行方が判らなくなり、また中年になってから復職します。物語のようにほんとうに放浪していたのかもしれません。
私の本業は遺跡の発掘屋さんですけれど、群馬県榛名山麓のとある遺跡発掘に参加したとき、平安時代の竪穴住居から帯金具が出土しました。帯金具とは平安時代の役人のベルトを飾るもので、部位はバックルでした。しかも黄金でメッキされており、五位殿上人でなければ許されないもの。私はすぐに閃きました。
「これは在原業平が、『あずまくだり』をしたときに、地元の娘に恋をして残していったものに違いない。別れたあとに娘は煩って、恋人のベルトを竪穴住居の梁にかけてながめながら亡くなった──ゆえにこの竪穴住居からでてきたのだ」
と騒いでいたら、団長さんがきいていて、
「偽物だよ。当時の文献にも書いてある。田舎では、かってにこういうのをつくって身分不相応の格好をする輩が多いから──勝手につくったり身につけたりしたら罰を与える──というお触れをだしたんだ」
というコメントをいただきました(リアリストは嫌いだよ!)。
了
.
ノート20090820/校正20160507