随筆/感動した物語の図式『サンクチャリ』
学生のとき、講堂で同期の人たちが何やら熱心に読んでいる本がありました。「なにそれ?」とのぞいてみると、田中芳樹の『銀河英雄伝説』でした。
はてさて。
物語の舞台は、宇宙の五割を支配する銀河帝国、四割を支配する自由惑星同盟、一割を支配するフェザーン自治領の三勢力がありました。物語の中心は、銀河帝国で王朝交代を画策する貴公子ラインハルトと、それに、フェザーンから自由惑星同盟に帰化した商人の息子ヤンウェンリーという若い二人の将軍を軸に展開していきます。
話を戻しまして。
当時私が在籍していたのは史学科です。はっきりいって史学科学生というのは、「オタク」で、トレンディーという言葉からは縁遠い存在です。すっかり皆、この小説に空気感染してしまいました。なんといっても、「三国志」のような構成のため面白いのです。しかしながら、『銀河英雄伝説』という題名はさすがに長いので、いつしか『銀英伝』と呼ばれるようになり、学科内の男女でひいきが二分されるようになりました。
女子は、もちろん野心的な貴公子ラインハルトのいる銀河帝国です。ライハルト陣営はイケメンぞろいで、まるで『ベルサイユの薔薇』のよう。
男子は、どことなく間が抜けているのだけれども互角の条件ならばラインハルトに一度も負けたことのないヤン・ウェンリーの自由惑星同盟です。部下といえばひと癖もふた癖もある『梁山泊』の好漢たちのよう。
『銀河英雄伝説』を知らない人に、そこまで話すと、「『スターウォーズ』と一緒だ。同盟が勝つんでしょ?」というのですが、ところがどっこい話しは逆。ライハルトが帝国を乗っ取って新王朝を築く間に同盟は政治不敗が進行していき、同盟の権力者たちが自分たちの保身のために、母国を売って滅ぼされてしまうのです。もっとも、後日、ヤン・ウェンリーとその後継者の活躍で、捨て扶持として首都惑星近辺だけささやかな自治が許される。
はい。
この物語は、原作が1500万部売れ、後日、深夜番組ながらアニメ化いたしました。普通は原作のほうがいいのですが、ストーリー構成や演出の自然さ、背景説明の親切からいってアニメのほうができがいいと思います。
ここからが本題。
このロングセラーと同じ図式をもった作品群を私は二つ知っています。『北斗の拳』で有名な武論尊と美しい劇画で有名な池上遼一氏が組んだ『サンクチャリ』、それからアニメ名作劇場の『ロミオの青い空』を挙げましょう。
登場する主役と準主役は、気品ある美男子です。気品を支えるのは、腐敗した社会を変えようとする強い信念です。主人公と準主人公は互いに尊敬しあいますが、決まって主人公の絶対的理解者である準主人公が劇的な死を遂げ、準主人公の意思を主人公が引き継ぎ未来へ一歩踏み出すという展開となります。後に映画化された武論尊・池上遼一の『サンクチャリ』は、友情における不可侵・聖域を意味し、物語の主軸であると考えますので、私はこの展開を「サンクチャリ・パターン」と呼ぶことにします。
絶対的友情「サンクチャリパターン」は、あまりにも美しく物語をきわだたせ、ロングセラーとなさしめるのではないでしょうか。先日、職場の若者に『ロミオの青い空』をみるように勧めたら、早速ネット配信のDVDを母君と視聴したのだそうで、冒頭から二人して号泣したのだとか……。
「サンクチャリ・パターン」は私のちょっとした発見。
了
ノート20090221/校正20160506