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随筆/隣部屋から腐臭が漂ってきた

 隣部屋から腐臭がする

 異変に気付いたのは七月の終わりのことだ。会社近くに借りているアパートの敷地は長方形で、駐車場を真ん中にして、三棟の二階建て長屋がコの字に配置されており、私の部屋は通りから駐車場越しにみて奥の棟にある。

 部屋の壁は薄く隣部屋の話し声がよく聞こえるのだが、最も悩ませたのは壁越しというよりは地鳴りのように床を伝って響く咳だった。ところが出張に出る直前に咳がぱたりと止まって、隣人の咳がしなくなったのだ。しかも異臭がしてきたのだ。

 私は気になりつつも水戸に出張することになり、八月一日月曜日に部屋を離れることになった。蝉が鳴いていた。やたらに暑い日が続いている。そして五日金曜日の夜、部屋に帰ってみると床にプチGの遺骸多数が転がっているではないか……。水戸に出張している一週間にいろいろ考えていた。首都圏にある会社近くのアパートに帰る運転中もそのことで頭がいっぱいだった。

 第一の仮説は常識的な解釈。隣の住人はゴミをため込む癖があり夏の暑さで臭気がこちらまできたのではないか? 第二の仮説は、最悪のケース。長く酷い咳き込み方からして、隣人は部屋で孤独に病死した。発見されずに遺体が腐乱しだしているのではないか?

 夜遅く帰宅。

 床に転がっているプチGを掃除機で片付ける。仕事の疲れもあり、案外そのまま眠ることが出来た。朝、起きて駐車場に出てみる。いつもは満杯であるのに、週末になるとコの字を描くアパート長屋三棟の広い駐車場に停めてある自家用車の大半がいなくなる。私と同様に仮住まいの単身赴任者ばかりなので、家族と過ごすため週末になると一斉に帰宅するからだ。

 私は隣人のアパートの部屋の入り口を何気なくのぞきこんだ。郵便受けに、「転居不在」のシールが貼ってあるのを見つけた。ここでへぼ探偵が推理の続きを始める。

 第一の仮説は常識的な解釈。「汚部屋」の隣人は挨拶もせずに退去した。しかも部屋に生ごみを置いたままにしたのである。私が不在としている一週間平日中に清掃業者が入り、「バルサン」のような殺虫剤を散布したため、プチGが部屋の僅かな隙間から当方の部屋に一斉に逃げてきて絶命した。どうだろう?

 だがどうしても最悪である第二の仮説を想像してしまうのだ。事件性はともかく、やはり隣の住人は私が不在の間に死んでいる。私が不在であった平日日中五日の間に他の住人の通報が管理人に行き、遺体は回収され、同様に、殺虫殺菌処理が行われて、プチGが当方の部屋に押し寄せ床で死んだのではなかろうか?

 あ、誰だろう。こんな夜更けにドアをノックする人がいる。非常識な。ちょっと仮保存して応対してきますね。一、二分したら続きを書きます。しばしお待ちください。では……(ノート2009/校正20160507)。

    了

.

 事件の解明。

 どこかの会社が宿舎として借りていたらしい。隣室の住人はしばらくするとまた同じ部屋に戻ってきた。第一の仮説が正解で「単なるお部屋」だ。咳き込んでいたのは持病の可能性もあるが、お部屋ゆえのハウスダストとも考えられる(ノート20160507)。

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