随筆/鷹の瞳のダンディー(ある文鳥の生涯)
帰宅の途中、ホームセンターに立ち寄ることが多かった私の楽しみはペットコーナーに脚を運ぶことで、そこにはいつも「彼」がいました。白文鳥の雄です。成鳥で、ふつうの個体よりも一回り大きく、嘴は赤々として、ほおはふくらみ、眼差しは鷹のよう。なぜかいつも売れ残っていて、けして若くはないようですけれど、ともかく美しい。ある日、小遣いをはたいて「彼」を得て、家に連れ帰りました。
美しいのは容姿ばかりではなく、歌声も見事で、七八種の声色を変えて唄い、ステップダンスを踊ります。威風堂々とし見事な唄を披露するこの鳥を私は、ダンディーと名付けました。ダンディーは、人間が嫌いというわけではありませんが、媚びるということをしません。肩に乗ったり、手に乗ったりは、気が向けばくるという程度です。
数年経ち、いつものホームセンターではないところの別のペットショップで、文鳥の幼鳥をみかけました。大きな卓上のガラスケースには30羽以上の幼鳥がいて、私がテーブルの縁に立った途端に、餌をねだって、群れて押し寄せてきます。
そのなかに白文鳥の「彼女」がいました。他の幼鳥が歩いてくるところを、最後尾にいたのに、ライバルたちの頭を踏みつけて、第一等でやってきました。一等賞の「彼女」を私は気に入って飼うことにしました。
幼鳥の性別はつきません。はじめ、「シャア」と名付けました、しばらくしてから卵を産んだので雌であることが判りました。ゆえに、「シャア子」となりました。彼女は人なつっこくて、手やら肩やらに乗るのが大好きで愛嬌をふりまいていました。
シャア子は、ダンディーが大好きです。ダンディーがいるところを必ず追いかけます。一緒の巣にしたら、背中に乗って怒られていました。はじめは嫌がっていたダンディーも、やがてシャア子を受け入れ、めでたくシャア子は伴侶となりました。
季節はいくつかめぐり、冬となりました。ダンディーは、夜になると、シャア子を奥に寝せ、自分は必ず守るかのように入り口で寝ます。
ある小春日よりの冬、巣かごが汚れていたので、下に敷き詰めていたミント入りの牧草を交換しました。巣丸はダンディーがせっせと運び込んだティッシュで、汚くみえたため、それもついでに処分しました。ところがそれが悪かった。ティッシュは防寒のために運んだものだったのです。
明け方、急に寒波が襲ってきて、室内の水道すら凍結してしまったとき、ダンディーは命を落としました。生き物が死ぬときは脱糞してはてるのですが、彼の遺骸にはありません。羽ばたくような格好で、ふわりと真新しい牧草の上に突っ伏していました。
シャア子は巣丸の奥にいたため無事です。ダンディーは、ずっと、寒さから守っていたようです。
ダンディーの死後、数日、シャア子は半狂乱となって、ふだんとらない行動を多くとりました。ほうきの柄についた紐をおもいっきり引っ張ったり、部屋の方々に伴侶の姿を探したりと──。
ダンディーの死から数年後に、シャア子が亡くなり、蘭丸やシルフィー、それに王様ことトリスタンがやってきます。人に、いろいろあるように、文鳥にもさまざまな顔があり、慣れてくると見分けることができるようになります。
鷹の瞳をしたダンディーは、もっとも思い出深い文鳥の一羽です。
了
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ノート2009/校正20160506