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随筆/爆風交響楽団 

 私の家内は鼻呼吸が苦手でいつも口で息をしており、そのため、ぽかんと口を開けていることもあります。「みっともないからやめてくれ」とお願いしたら、閉じるようになりました。ですが、鼻呼吸をしないで口をとじると、唇がビオラのように鳴ってしまいます。

 ビオラといえば、先日、群馬県交響楽団「第42回前橋市民コンサート」に行って参りました。ご承知のように、群馬県交響楽団は、NHK『プロジェクトX』でも紹介された日本屈指の名門楽団ですが、お恥ずかしながら私は15年ほど群馬に住んでいたのにもかかわらず、まだ一度もコンサートに行ったことがありません。そこで、単身赴任先から家内に連絡をとって、S席を購入してもらいました。多少お高くなるのを覚悟していたところ、なんと3500円という安さで大喜びです。おそらくは地元自治体が支援しているのでしょう。

 さあ、開演です。

 指揮は円光寺雅彦氏、ゲストのヴァイオリニストは長尾春花嬢。

 渋い紳士である円光寺氏が指揮して、まずは軽く一曲。曲目は、チャイコフスキー作曲「ポロネーズ」を奏でました。

 曲の途中で、「ちょっとすみません」といって小学生くらいのお子さん二人を連れた若いお母さんが、奥の指定席に分け入って入ってましたので、私と家内は立ち上がって通してあげました。若いお母さんは、家内の右隣に着席するやいなや、パンフレットをぱらぱら音をたててめくっています。

 さらに、春とは名ばかりの寒い夜でしたので、遠くの席から、けほんけほん、と咳がきこえます。また、赤ちゃんの泣き声もありました。そんな具合に第1曲が終了。風邪ひきさんの聴衆は、ここぞ待ってましたとばかりに、一斉に咳きをしだしました。

 第2曲で、いよいよマドンナである19歳の天才ヴァイオリニスト長尾春花嬢の登場です。パンフレットの写真でみると小柄で細身の可憐なひと。実は私、最近、乱視と近視が進みましてね、遠くがちょっとぼやけてみえてしまうのですよ。春花嬢の白いドレスが、古風なため、ぶかぶかにみえ、どうもフィットしてみえません。

 曲目は、同じくチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲 二長調 作品35」です。

 優雅にオーケストラのヴァイオリニストたちが奏で始めました。春花嬢の弦も滑りだしていきます。優美なメロディーにつられて隣の家内もだんだん乗ってきました。

 そして私が口癖のように、「お口を閉じてね」とお願いしていたものだから家内は、ここぞとばかりに、(ぴいいい、ぷううう、ぶびびびーっ)とヴィオラ奏者に早変わり。私は肘で小突いて教えてやったらにらみ返してきます。それからがいいところ、

 壇上の春花嬢もおおのりです。ヴァイオリンを天にかざして激しくかき鳴らしだしたではありませんか。

(こっ、これはヘビメタだーっ!)

 次に下をむいてかき鳴らしだします。

(なんだ。この懐かしさは)

 春花嬢のアクションは、私の故郷である福島県の常磐炭坑節という盆踊りに酷似しているではありませんか。

 また家内の隣の若いお母さんがパンフレットをぱらぱらやりだしてます。

 私が、何気なく横をみると、にらみつけたと勘違いした家内が、「なによーっ!」と場所もわきまえずに怒鳴りました。追い討ちをかけるように赤ちゃんの泣き声、風邪ひきさんたちの咳……。

 私の頭の中はもうすっかり、忌野清志郎のライブと盆踊りの回転櫓画像。頭に逆巻く妄想と、お腹の中で、(くっくっくっ)と吹き上げてくる笑いをこらえてもう、コンサートどころではありません。しかし素晴らしいですよ、シンフォニーは。すっかりはまってしまいました。(ところで、いっておきますけどね、私、ずっと静かにしてましたよ)


ノート20080221/校正20160506


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