6 ゼルスの返答
「今の俺には他に居場所がある」
ゼルスが言った。
「お前の言葉には従えない」
「居場所? はっ、何言ってやがる!」
ラシッドが笑った。
「俺たち『銀水車』は最強の戦闘魔術師集団だ。お前がいる『希望の盾』とやらのような温い場所とは違う!」
「……温い、か」
「ああ、温いね」
つぶやくゼルスにうなずくラシッド。
「お前の本質は戦闘と破壊だ。そして」
彼の鋭い瞳がゼルスを射抜く。
「殺意、だな」
「組織にいたころはそうだったかもしれない。けど、今は違う」
ゼルスはその視線を真っ向から受け止めた。
「今はもう……違うんだ」
「くくく、平穏で温かい生活に目覚めました、ってか? 悪いが、そいつは捨ててもらう」
ばちっ、ばちばちばちぃっ!
今度はラシッドの全身から魔力のスパークがほとばしった。
「――力ずくで連れ戻そうというのか?」
ゼルスは警戒心を高めた。
「ゼルス、お前は強い。だが、俺には勝てない」
ラシッドが冷然と告げる。
「まして、組織から離れて、ぬるい場所でぬくぬくとしていた奴にはな」
「くっ……」
ラシッドから押し寄せるすさまじい威圧感に、ゼルスは思わず後退する。
彼が全身にまとう気配には、強烈な殺気がこもっていた。
『希望の盾』では味わえないような、冷徹な気――。
ラシッドは今も、そんな殺気が渦巻く戦場で戦っているのだろう。
魔術結社『銀水車』のために、あらゆる犯罪行為に手を染めながら――。
そう、かつてゼルスもしていたように。
「もう一度だけ聞くぜ。俺たちの元に戻れ、ゼルス」
「俺は――」
ゼルスは息を飲んだ。
「俺の返事は」
声が我知らず震える。
返答次第では本当にラシッドが襲ってくるだろう。
ゼルスにそれを凌ぐことはできないだろう。
下手をすれば、次の瞬間には殺されているかもしれない。
「俺の返事は……ノーだ」
だが、ゼルスが示した答えは『拒絶』だった。