3 ラムの気持ち1
「あ、あの、この間のことなんですけど……」
ラムがか細い声でつぶやく。
「っ……!」
俺は思わず息を飲んだ。
とっさに言葉が出てこない。
心臓がバクバク言い始めた。
この間のシーンがあらためて脳裏をよぎる。
本人を前にして思い出すのは恥ずかしすぎるのだが、彼女の上気した顔や唇の感触を思い出してしまう。
「ち、違うんです、キスのことじゃなくて、えっと……その、エルミファ様のことで……っ!」
ラムは真っ赤になっていた。
「……ああああ、また思い出しちゃったよう……」
言いながら、さらに赤くなるラム。
エルフ特有の尖った耳が先端まで赤く上気していた。
「エルミファ様から連絡が来たんです」
「えっ、本当に?」
「ええ。あれからエルミファ様が他の長老たちに掛け合ってくれて、あたしが森を出たことは不問にする、って」
ラムがにっこり笑う。
「本当なら、けっこうな重罪なんですけどね、えへへ」
「いや、あっさり笑うところなのか、そこ……」
「下手すると長老クラス複数人から呪殺されてましたね」
「それ、かなりやばいやつ!」
俺は思わず叫んでいた。
「あたしも、そこまでの罪だって知りませんでした……」
ラムが苦笑した。
とはいえ、額につ~っと汗が伝っているところを見ると、彼女もそれなりにヒヤッとした思いをしたんだろう。
「でも、大丈夫なんだよな?」
「ええ、エルミファ様が長老たちを説得してくれました。『ラムルファは確かに森を脱走したけど、新たな居場所を人間たちの中に作っている。そんなふうに外に飛び出したエルフは、この森の中にはいなかった。ラムルファはこの森の新たな可能性を示す者である』とかなんとか、それっぽく」
「へえ」
「だから、あたしは安心してここで暮らせるんです。ありがとうございました、エリアル」
ぺこりと頭を下げるラム。
「いや、俺は大したことはしてないし」
「してますよ! 体を張ってくれたじゃないですか!」
「まあ、仲間だしな、はは」
「嬉しかったです」
ラムが微笑み、頬を赤く染める。
「つい夢中で……キスなんてしてしまいました。本当にごめんなさい」
「えっ!? いや、その……」
今度は俺が赤くなる番だった。