8 ミレットとの出会い
「えっ、ゴブリンロード!? 今回の討伐クエストにそんなモンスターが混じっていたんですか!?」
俺とフレアはギルドの窓口まで討伐報告に来ていた。
受付嬢は目を丸くしている。
「当ギルドの情報不足にて申し訳ございません」
「いや、なんとか倒せたし、別にいいんです」
「ですです」
俺たちは受付嬢に言った。
「それにしても――」
彼女は俺たちを見て、
「お二人ともFランク冒険者なのに……よくご無事でしたね。しかもBランクモンスターを倒してしまうなんて」
「固有スキルを持ってる厄介な相手でしたけど、どうにか」
俺はにっこりと笑った。
「特別ボーナスがもらえるなんて思いませんでした」
「まあ、情報にない強力なモンスターが出てきたお詫び金、って意味合いが強いらしいけどな」
俺たちはゴブリン討伐の報酬をもらい、ホクホク顔だった。
金額で言うと、三、四か月くらいの生活費はまかなえそうだ。
先立つものがない俺たちにとっては、ありがたい話だった。
と、
「まだ駆け出しでゴブリンロードを倒したっていうのは、あなた? 驚いたわね……」
一人の冒険者が俺たちの前に歩み寄ってきた。
深い海を思わせる藍色の髪をポニーテールにした美女。
身に付けているのは軍服風の衣装だ。
「君は――?」
「あ、自己紹介もまだだったね、てへ。いきなり話しかけちった」
いたずらっぽく舌を出して笑う彼女。
「あたしはミレット。いちおうAランク冒険者だよ」
「Aランク……!」
俺とフレアは息を飲んだ。
Cランクで一人前、Bランクで一流、そしてAランクは――超一流と呼ばれる。
「ま、冒険者の方は休業中なんだけどね。今のあたしはティルト王国のスカウト事業部で仕事をしてるから」
と、ミレット。
「スカウト事業……?」
「ここ数年、王国は人材発掘に力を入れているの。知っての通り、ここは弱小国でしょ。だからこそ優秀な人材が欲しい。すごく欲しい。とーっても欲しい!」
ミレットが身を乗り出す。
俺の顔をジッと覗きこんだ。
深く、強い光をたたえた瞳――。
吸い込まれそうな錯覚さえ覚える眼光だった。
「ち、ちょっと、顔が近いですよ、ミレットさん!」
フレアが慌てたように俺とミレットの間に割って入った。
「ふふ、あなたもかなりの使い手らしいわね。【ファイアアロー】を100本近く生み出せるんですって?」
「どうして、それを――」
「スカウト事業部を舐めないでよね。受付嬢や冒険者たちから地道な聞き取りをしたのよ。有望な戦士や魔法使いたちの情報はぜーんぶキャッチするの♪」
ミレットが楽しげに言った。
「あの、俺たちに声をかけてきたのって、もしかして――」
「そ。スカウトよん」
俺の問いに、ミレットはますます楽しげな顔をした。
「あなたたちの力をティルト王国に貸してほしい。今、危機に瀕しているこの国のために――」