5 初めてのクエスト
「採集クエスト?」
「ああ、『テリン草』っていう薬草を採ってくる仕事だ。主に解熱に使うらしい。とりあえず俺の冒険者としての初仕事だな」
「私も一緒に行きたいです」
フレアが言った。
「うーん……まあ、危険はないだろうしな」
「というか、私も冒険者になります。【ファイアアロー】でお兄様をお守りしますっ」
と、身を乗り出すフレア。
「なんといっても最上級スキルですし。強いですよ、私!」
「それは確かに……」
うなずく俺。
「あと戦闘訓練も受けてますからね」
「えっ、そうなの?」
「お父様が『最低限自分の身を守れるように』って、剣や魔法の家庭教師をつけてくれてたんです」
「知らなかった……」
俺にはそういうのを一切してくれなかったけど、フレアや、おそらく弟のハリーにも戦闘訓練を受けさせていたんだろうな。
二人との教育格差を感じ取ると、少し寂しくなってしまう。
もちろん、育ててもらっただけでありがたいんだけどさ。
「お兄様は戦闘に関しては素人でしょう? 二人で冒険者をやりましょ。ね?」
「……そうだな。やってみるか」
フレアにも冒険者登録をしてもらい、俺たちは二人でパーティを組むことにした。
「パーティの名前を登録するみたいなんだけど……どうしよう?」
「うーん……『エリアルとゆかいな仲間たち』というのはどうでしょう?」
「それはちょっと」
「『絶対無敵お兄様』とか『熱血最強お兄様』とか」
「いや、それもちょっと」
「で、では……『禁断の兄妹愛らぶらぶかっぷる』というのはっ」
やけに息を荒げているフレア。
「も、もうちょっと冒険者パーティっぽくしたいかな……」
俺は苦笑した。
――いろいろ協議した結果、『銀の宝玉』という名前にした。
名前の由来は、実家の庭にある銀色の宝玉のオブジェ。
子どものころ、ここでよくフレアと一緒に遊んだんだ。
虐待されてきた俺にとって、子ども時代の数少ない幸せな思い出。
それを思い起こせるように、この名を付けた。
「いい名前ですね。さすがお兄様です」
「俺たちの絆とあらわす名前だ」
俺はフレアににっこりと笑った。
俺たちは薬草が多く取れるという町はずれの森にやって来た。
採取可能な時間は、主に朝の七時から十二時。
「お兄様、ありました!」
「いや、待て。それはちょっと形が違う。俺たちが採取しなければいけない『テリン草』は三つ葉なんだ。それ、四つ葉だろ」
「あ、本当だ……四つ葉って幸運のお守りになりそうですね」
「はは、そうだな」
俺たちは和気あいあいと採取を進めていく。
付近には似たような形をした別の草がいくつもあり、採取は思ったより手間取った。
うーん、これは集中して見分けないと駄目だし、疲れるなぁ……。
そう思ったとき、はっと閃く。
「そうだ、フレアの所持スキルに【集中】ってあったよな。あれを学習させてくれ」
――俺はフレアの【集中・下級】を学習して身に付けた。
さらに残りポイント7000のうち1000を使い、【集中】を上級に進化させる。
「よし、あらためて――【集中】」
俺はスキルを発動させた。
すると――。
「おおっ、分かるぞ……!」
視界が圧倒的にクリアになったような感覚があった。
全部の草を一目見渡しただけで形を把握し、それらの位置を全部覚えることができた。
今の俺、めちゃくちゃ集中してる――!
「これと……これと、これ! それから、これにこれに……これもだ!」
「お兄様、すごい速さで採取してます!」
「うおおおお、どんどん採るぞ!」
というわけで、五分程度で必要量を採取することができた。
普通なら数時間がかりの作業である。
「お兄様、本当にすごいです!」
「フレアのスキルを使わせてもらったおかげだよ。あ、フレアの【集中】もパワーアップさせておくか」
「うーん……スキルポイントは有限ですし、私はいいです」
「そっか」
と、そのときだった。
ぴろりろり~ん♪
どこからともなく音が鳴り、前方にメッセージが表示される。
『スキルを役立てていただき、ありがとうございます』
『スキルポイント5000を獲得しました』
『今後もスキルを活用し、一定の成果を出された際には、追加でポイントが手に入ります。どんどん使ってくださいね』
よく分からない理由でスキルポイントが新たに手に入ってしまった。
この文面からすると、俺がスキルの学習をしたからなのか、あるいは学習したスキルを活用して仕事を達成したからなのか、あるいはその両方か――。
いずれかがきっかけとなって、スキルポイントを付与してくれたようだ。
つまり、今後もスキルを使って冒険者の仕事をこなせば、さらにポイントが増える……?
俺たちはギルドに戻り、採取した薬草を窓口に引き渡した。
で、報酬をゲット。
俺にとって生まれて初めての『働いて得た報酬』だ。
フレアと顔を見合わせ、二人でにっこりと笑う。
これが――仕事をして、日々の糧を得るという生活なんだ。
すごく充実感があった。