5 俺は単騎で戦場を制圧する
「ゴーレムがやられた……!」
指揮官の顔が青ざめていた。
「どうする? そろそろ退却命令を出してくれるとありがたいんだが?」
俺は指揮官を冷然と見据える。
表情には出さないように努力しているものの、内心では結構緊張していた。
これで力の差を感じ取って敗走してくれればいいけど、この後もひるまずに攻撃してくるようなら――。
威嚇して退却させることはできない。
ここからは殺し合いになる。
だけど、できれば殺したくはなかった。
戦場に来ている以上、覚悟は決めているつもりだけれど。
実際に俺は人を殺したことがない。
だから――本当は怖いんだ。
頼む、敗走の決断をしてくれ。
俺は祈るような気持ちで指揮官を見据える。
しん、と沈黙が流れる。
その時間は、実際には数秒か十数秒程度だったと思う。
けれど、俺には何分にも、何十分にも感じられた。
「ぐっ、こうなったら――」
指揮官がようやく口を開く。
どっちだ?
なおも攻撃するか。
ここで撤退するか。
「――退却だ!」
指揮官が叫んだ。
俺はホッと安堵した。
「いやー、結局エリアル一人でなんとかしちゃいましたね~」
ラムがにっこりと笑う。
「すごかったぜ、エリアル」
シャーリーがニヤリと笑う。
「大した奴だよ、君は」
「まったくだ、はは」
ゼルスも珍しく褒めてくれたし、ランバートも上機嫌だった。
「――私の指揮下で勝手な行動は慎んでもらいたいものだな。まったく『希望の盾』だか何だか知らんが……」
と、背後から一人の偉丈夫が現れた。
年齢は四十歳過ぎだろうか。
精悍な顔立ちや全身からあふれる覇気は、いかにも歴戦の勇士といった雰囲気だった。
「この部隊の指揮を執るサイドス将軍だ」
「……エリアル・ウィンドです」
「ふん。この部隊はあくまでも私の命令で動いているのだ。勝手な行動をしてもらっては困るな」
「でも、エリアルのおかげで勝てたんでしょう~」
抗弁したのはラムだった。
「結果論でものを語るな。私は軍としての原則について話している」
サイドスが不快げに顔をしかめた。
「……先走ってしまったことをお詫びします、将軍」
俺は一礼した。
「うむ。今後は気を付けるように」
重々しく告げるサイドス。
それから、俺に近づいてそっと耳打ちした。
「……とはいえ、君のお陰で我が軍はほぼ損害なしに勝利することができた。多くの兵の命が救われたのだ。それについては私からも礼を言わせてくれ。ありがとう……!」
ふと見ると、サイドス将軍は満面の笑顔だった。