1 隣国の侵攻
ゾナーム帝国。
三大国に次ぐ軍事力を持つと言われる強国だ。
ティルトとは西側の国境で接しているこの隣国が、今日の早朝に突然攻め入ってきたという。
報告してくれたのはミレットである。
俺たちの屋敷まで駆けつけたのだ。
「騎士団と魔法師団が出撃して対応してる。エリアルは王城に来てもらえる? 王様が会いたいって」
「分かった、すぐ行く」
「私も行きます、お兄様」
と、フレア。
「身の回りのお世話でも雑用でも、何かお役に立ってみせます」
「……分かった。けど、危険なことはさせないからな」
「お兄様のお申し付けどおりに」
フレアがうなずいた。
俺とフレア、ミレットの三人は王城にやって来た。
さっそくグロリアス王と面会する。
「ゾナームは以前から不穏な動きを見せていた。我が国の魔石資源に目を付けているらしくてな……いずれ攻め入ってくるだろう気配も見せていた。とはいえ、ここまで突然とは」
王はため息をついた。
「早朝の戦いは小競り合い程度に終わり、現在は小康状態だ。ただいつ戦いが再開されてもおかしくない」
「……俺も戦地に行きます」
進言する俺。
「エリアル、君の能力は貴重だ。他者のスキルを成長させることができる。危険な場所に出すわけにはいかん」
王が首を振った。
「ですが、この国の危機なら俺だって戦いたいです」
自分でもそんな台詞が出てきたことに、少し戸惑う。
ちょっと前の俺は、実戦すら知らなかった。
モンスターの討伐だってこの国に来て初めてやったんだ。
それが今は、本物の戦場に赴こうとしている。
討伐クエストを重ね、実戦を経験することで、その辺りの不安や恐怖心に耐性ができているのかもしれない。
でも、それだけじゃない。
「まだ、ここに来て日が浅いけど……でも、俺はこの国が好きなんです。だから、守りたい。その力になりたい」
「エリアル、その申し出はありがたいが、しかし――」
「今、一気に戦線を押し切られたら、今後の騎士団や魔法師団の育成なんて言ってられなくなるでしょう。力が必要なのは今なんです……!」
俺は力説した。
「大量のスキルを学習して、俺は強くなりました。何よりも他者のスキルは『最上級』までしか上げられませんが、俺の戦闘スキルは軒並み『極』まで上げています。戦場でも、きっと力になれます」
「……しかし」
「では、私も行きます。兄を守ります」
「フレア!?」
妹の申し出に、今度は俺が声を上げた。