10 夜の出来事
「ただいま」
俺は屋敷に戻った。
フレアはすでに帰宅しているようだ。
「おかえりなさい、お兄様」
と、出迎えてくれた。
「今日も出かけていたのか?」
「ええ、実はラムさんやシャーリーさんに訓練してもらってるんです」
フレアが微笑む。
「訓練?」
初耳だった。
フレアがどんな用件で出かけているのは知らなかったし、妹には妹のプライベートがあるから……と特に追及もしなかったんだけど。
「戦闘訓練です。もっと強くなって、お兄様のお役に立ちたいので」
「普段の討伐クエストで、フレアは十分に貢献してくれてるだろ」
「まだまだです。お兄様にとって『なくてはならない女』になりたいんですっ」
身を乗り出すフレア。
鼻息が荒い。
「お兄様にとって――私はどういう存在ですか?」
「えっ」
「大切ですか? 愛してますか?」
「当たり前だろ」
『愛してる』なんて正面から言われると、さすがに気恥ずかしいけど……。
「……ん?」
フレアの頭上に光球が浮かんでいた。
その光球は、
ちかっ、ちかっ……。
と点滅している。
「なんだ、これ――」
「どうかしましたか、お兄様?」
「いや、お前の頭の上に変なのが浮かんでるんだ」
「変なの?」
「光の玉……みたいな……」
俺はおそるおそる光球に触れた。
うん、普通に触ることができる。
ちょっと温かくて、気持ちがいい。
「???」
フレアはそれを見てハテナ顔だった。
「これ、見えるか?」
俺は光球をフレアの前に持っていこうとした。
……が、ビクともしない。
フレアの頭上10センチくらいの位置に固定されてるように、力を込めてもそこから動かせない。
「? あれ、光球の中に何か見えるぞ――」
文字が浮かんでいる。
目を凝らすと、こう書いてあるのが見えた。
『【ファイアボール】取得間近』
と。
「もしかして――」
俺はハッと気づいた。
これは【スキル鑑定・極】の能力の一つなのか?
フレアがもうすぐ取得するスキルが表示されている……?
「なあ、フレア。最近、新しいスキルを覚えたりしたか?」
「新しいスキル……」
スキルの取得は基本的に二つのパターンがある。
生まれ持って取得しているものと、訓練やその他の理由で突然身につくもの。
「あ、そういえば【ファイアアロー】を使うとき、最近は『矢』の形じゃなくて『球状』に近い形で出てくることがあります」
「それだ!」
俺はフレアに言った。
やっぱり、フレアは【ファイアボール】を身に付けつつある――?