3 伯爵家、没落のきざし(追放者視点)
前半は主人公の父である伯爵視点(=追放者視点)、後半は主人公視点です。
やっとエリアルを追放できた――。
ウィンド伯爵は浮かれていた。
もともとは前妻の浮気によって生まれた子だった。
自分の跡継ぎにはふさわしくない、とずっと思っていた。
だが、実の子ではない、と公表すれば、同時に前妻が他の男に寝取られていた事実をも知られることになる。
だから、彼を追放する理由をなんとか探し、こうなるように画策してきたのだ。
「ハリー、この家を継ぐのはお前だ」
伯爵は次男のハリーにそう言った。
いや、もうこれからは彼が長男だ。
「跡継ぎとして、これから私が色々と教えてやるからな」
「うん。僕、がんばるよ、父さん」
ハリーは健気だ。
きっと自分に似たのだろう。
「ハリーちゃんなら、きっと立派な次期当主になれますよ」
伯爵夫人のエミリーがにっこり笑う。
彼女は後妻であり、ハリーはその彼女と伯爵の間に生まれた息子である。
若く美しい妻と健気で頼もしい跡継ぎ息子――。
二人を前に、伯爵は幸せな気分でいっぱいだった。
(邪魔なエリアルはもういない。くくく、俺の人生はバラ色だ……!)
伯爵は浮かれていた。
このときは、まだ。
数日後、伯爵は自分の人生がいきなりどん底に落ちたような情報を聞くことになった。
「な、何、我が妻が……エミリーが浮気していた……!?」
その報告に伯爵は呆然となった。
前妻だけでなく現在の妻まで他の男と密通していたとは。
「くそっ、なんてことだ……」
伯爵はその場にがっくりと崩れ落ちる。
自分を裏切ったエミリーに対する怒り、悲しみ、そして嫉妬。
頭の中が爆発しそうだ。
怒りは、やがて情けなさへと変わっていく。
男として、夫として、これほどの屈辱はなかった。
伯爵はハッとなった。
「ま、まさか、ハリーがその男との子ということは――」
エリアルに続いてハリーまで実子ではなかった、となると、さすがにシャレにならない。
「調べろ! ハリーが本当に私の子なのかどうか! 当然、誰にも知られないようにだぞ! この私の面子にかかわるからな!」
「かしこまりました、伯爵」
配下の者たちが静かに部屋を出て行く。
「くそっ、くそっ、俺を舐めやがって、エミリーめ!」
伯爵は怒りが収まらず、手近の家具を殴りつける。
最悪だった。
人生で、今日が最悪の日かもしれなかった。
※
俺はフレアと一緒に近くの宿屋に来た。
「しばらくはここを拠点にするつもりだ」
「ティルト王国……私も何度か来たことがありますけど、いいところですよね」
と、フレア。
「エルメダは父上の影響力が大きいからな。違う国で暮らすのは、最初は大変だろうけど、長い目で見ればその方がいい気がする」
「私はお兄様と一緒なら、どこへでも」
「はは。もし実家に帰りたくなったら、いつでも言――」
「お兄様の傍にいます!」
俺にみなまで言わせずフレアが叫んだ。
俺は小さく苦笑した。
「分かった。じゃあ、一緒に暮らそう」
「やったー!」
フレアは大喜びだ。
「で、今後は冒険者として生計を立てていこうかな、って思ってるんだ」
「冒険者……ですか」
「腕一本で稼げる仕事だし、隣国じゃ後ろ盾もない。それに俺のスキルを活かすには、それかなって……」
いや、何よりも――。
俺自身がこのスキルの可能性を試してみたい。
「じゃあ、私も冒険者になっちゃおうかな♪」
フレアは楽しそうだ。
「いや、危険だから」
「むー。私にだって強力スキルがあるんですよ?」
「えっ、フレアってスキルに目覚めてたのか?」
「ひどーい! 知らなかったの!?」
フレアが叫んだ。
「あ、でも家族にも秘密にしてたんだった――知らなくて当然ですね、えへへ」
「ああ、驚いたよ」
俺はフレアに言った。
「よかったら、お兄様のスキルで私のスキルを鑑定してください」
「ああ、いいぞ」
というか――。
【スキル鑑定・極】を使えば、フレアのスキルを成長させられるんじゃないか?