3 伯爵家、没落のきざし5(追放者視点)
その日もウィンド伯爵は『災厄の王』の対策部隊編成の任についていた。
当初望んだメンバーよりも質は落ちてしまったが、それなりの腕を持つ騎士や魔術師を中心にメンバーを組むことができた。
「騎士チームの方はお前が中心になってまとめるのだ。よいな」
「承知いたしました、伯爵」
彼が声をかけた相手は、まだ二十歳そこそこの若い騎士だ。
貴族の三男で、秀麗な顔立ちをしている。
名前はグランツ。
(さぞかし女から騒がれるのだろうな)
伯爵は忌々しい気持ちで吐き捨てた。
グランツは――伯爵の妻であるエミリーとひそかに通じていたという情報を得ていた。
つまりは自分の妻を寝取った男だ。
そんな憎い相手に騎士チームのまとめ役を頼むのは、なんとも腹立たしかった。
だが、グランツの実力は本物である。
剣の腕は申し分ないし、面倒見がいい性格らしく人望もある。
まとめ役としては、うってつけなのだ。
伯爵としても今回の仕事は王から直々に受けたものであり、自身の面子のためにも出世のためにも、絶対に失敗は許されない。
グランツのような有能な男を重職から外すことはできなかった。
「必ずや閣下のご期待に応えてみせます」
グランツが一礼し、こちらを見つめる。
その瞳に宿る眼光は――。
(俺を見下してやがる……くそっ!)
分かるのだ。
伯爵の妻をモノにしてやったと勝ち誇る感情が、眼光からほとばしっている。
だがそれに対して、伯爵は何も言い返せない。
屈辱だった。
それから数日後。
「伯爵、奥様が!」
屋敷に戻ってきたところで、執事が駆け寄ってきた。
「どうした! エミリーに何か――」
「お喜びください。先日から奥様の体調に変化があり、主治医に診てもらったところ――」
執事が微笑む。
「身ごもっておられるようです」
「っ……!」
伯爵は呆然となった。
もちろん、妻の妊娠は喜ばしいニュースだ。
そのはずだ。
だが――。
(本当に、俺の子か……?)
頭に浮かんだのは、あの忌々しいグランツの顔だった。