2 旅立ちのお供に妹がやって来た
今度こそ一人だった。
残念だけど、仕方がない。
「いつまでも落ち込んでいても仕方ないよな……」
思ったより冷静な自分がいた。
やっぱり前向きに考えなければ。
そう、さしあたって考えなきゃいけないのは――今後の生活費だ。
いちおう父上が最低限の金は持たせてくれた。
けれど、それは移動や食費、宿賃などで二週間もつかどうか。
それまでに新生活の基盤を作らなければならない。
「金かぁ……」
実家を追放された俺は貴族の子息という肩書きを使えない。
頼れるのは自分の腕一つ――。
「やっぱ、この鑑定スキルを使って稼ぐ方法を考えないとな……」
辺境の王国ティルト――。
実家を出て、国を飛び出した俺はこの国にやって来た。
以前、父のお供で何度かここを訪れたことがあり、居心地がよくて印象に残っていたのだ。
「とりあえず、ここを生活拠点にしよう」
大都市というわけじゃないけど、ここの王都に住んでいる人々はいずれも優しげな顔をしていた。
そういうの、大事だからな。
――ということで、俺は冒険者ギルドにやって来た。
就職先としていくつか考えたのだが、最終的には以前から憧れがあった『冒険者』という職業に挑戦したくなったのだ。
「F級冒険者……つまりは最底辺か」
冒険者登録や一通りの説明を受け、俺はギルドを後にした。
分かっていたことだけど、ここでは貴族の家柄なんて役には立たない。
俺は最底辺のランクからスタートだ。
ここからクエストの達成数や成功率などの実績によってランクが上がっていく。
ランクが上がるほど、より報酬が高く、より難度も高いクエストを受けられるようになるシステムだ。
逆にランクが低いままだと、低報酬のクエストしか受けられないから、生活の質も低いまま。
「成り上がるほど生活が豊かになるし、そうでなければ貧乏生活が続くわけか……冒険者も楽じゃないんだな」
ま、それが『実力の世界』ってことなんだろう。
とりあえず、薬草採集の仕事を受けたから、明日の朝一で出発しなきゃいけない。
その薬草を採取できるのが朝の二時間くらいなんだよな。
遅刻しないようにしなければ――。
今日は宿でゆっくり休んで英気を養おう。
俺は宿に続く道を歩いていく。
――と、
「ま、待ってください~」
背後から声が聞こえる。
振り返ると、
「待ってぇ~……きゃあっ」
べち。
あ、転んだ。
「うううう……」
よろよろと起き上がったのは十五歳くらいの少女だった。
長い金色の髪に赤いワンピース型のドレス。
まるで貴族みたいな格好だ。
そして、道行く人が全員目を止めるほどの可憐な美貌――。
「――って、フレア!?」
追いかけてきていたのは、妹のフレアだった。
思いっきり顔を地面にぶつけたらしく、泣き顔だった。
「おい、大丈夫か」
俺は慌ててフレアの元に駆け寄った。
「お前一人か? 一人で街を歩き回るなんて危ないじゃないか」
「お兄様と出会えたから平気です」
フレアがにっこり笑った。
「どうして、こんな場所に……父上のお供か?」
「いえ、私は家を出てきたので。一人で」
「えっ?」
「私もお兄様と一緒にいます!」
フレアが俺にしがみついた。
「だって、お兄様が一人になっちゃう……」
「けど、いきなり出て行くと家のみんなが心配するだろ」
「手紙を置いてきました!」
フレアが俺を見つめる。
「それと定期的に家にお手紙書きます! だからいいでしょ? ね? ね?」
言いながら、俺に抱き着いてくる。
すりすりと頬を寄せ、じゃれついてくるフレア。
やっぱり……彼女は俺にとって可愛い妹だ。
血がつながってなくても、関係ない。
俺にとって大切な家族なんだ。
「……分かった。とりあえずは、ここにいていいぞ」
「やったー!」
「けど、手紙はちゃんと書けよ。約束だぞ」
「はい、約束します~!」
フレアは本当に嬉しそうだった。
「あ、今日は一緒のベッドで寝ましょうね。久しぶりにっ」
「あ、ああ……」
まったく、フレアは甘えん坊だなぁ。