2 伯爵家、没落のきざし3(追放者視点)
『災厄の王』――。
伝説の魔物の王が目覚めようとしている、と王に言われ、国を防衛する部隊の編成を言い渡されたウィンド伯爵は、悩み抜いていた。
一体、どんなメンバーにするべきか?
規模は?
予算は?
問題は山積み――というか、むしろ問題しかない。
手始めに財務大臣にどれくらいの予算なら出せそうなのかを聞いてみる。
この財務大臣も『災厄の王』については王から聞いている。
「国の危機といっても、実際にエルメダを襲うかどうかも分かりませんし、具体的にいつ来襲するかも分からない。湯水のように予算を使うわけにはいきますまい」
「だが、民の安全を第一に考えるべきでは――」
「無論です。ただ、民の命にも優先順位というものがありましてな」
財務大臣がニヤリと笑う。
「王や貴族、あるいは富豪……この国を動かす力を持つ者や、それに近しい者をまず守るべきでしょう。末端の民など多少死んだところで、国には大きな影響はありませぬ」
冷たい考えだが、伯爵もそこは賛同する。
自分たちは国を動かす心臓のようなもの。
末端の民は爪や髪の毛程度の価値しかない。
多少傷ついても、また生えてくる。
まず守られるべきは自分たちだ、と。
「そうなると最優先で守るのは王都――ここの守備だけは頑強にせねばなりますまい」
「然り。そのための予算は潤沢に用意しましょう。逆にそこより離れた都市群には、それなりの守りでよいかと」
「ふむ……」
確かに、その通りだ。
だが――国としてはそれでよくても、伯爵としてはもう一つ問題がある。
面子だ。
王都だろうと辺境だろうと、民が死ねばそれは『被害』として報告される。
その『被害』をいかに少なくするかが、国の防衛を命じられた伯爵の腕の見せ所であり、『成績』のようなもの。
「あなたの面子のためだけに……国の貴重な予算をいたずらに消費することはできませぬぞ、伯爵」
財務大臣が釘を刺してきた。
「仮に『災厄の王』が我が国を襲ったとして、『被害』をできるだけ防ぐのがあなたの仕事なら、私の仕事はいかに支出を減らすかということでして……くくく」
「そのためなら民の命が失われてもよいと?」
「民の命などどうでもよいのは、あなたも同じでは?」
「むむ……」
伯爵はうなった。
この財務大臣から予算を引き出すのは、一筋縄ではいかないようだ。
なら、どうやってより多くの予算を約束させるか――。
その駆け引きに敗れれば、伯爵の仕事の成功率はそれだけ落ちることになる。
「むむむ……」
伯爵はまたうなった。
――最終的に『災厄の王』防衛のための予算は、当初考えていた額の半分程度しか引き出すことができなかった。
※次回はまた主人公視点に戻ります。