10 決断
「俺が、こいつにトドメを――」
ランバートはうつむき、動きを止めている。
もともと彼との会話で注意を引き付けられ、隙ができたために、俺は別の使徒に拘束された。
つまりランバートもグルだったわけだ。
けれど、今の彼は――何か様子がおかしい。
まるで俺を陥れたことを後悔しているように。
彼の本心が――見えない。
「どうした? 今が絶好の機会であろう。私とて長くは持たんぞ――」
と、クランヅェーリが苛立ったように言った。
「この……っ!」
俺は攻撃系のスキルを発動し、なんとか触手を焼き切ろうとするが、なかなか頑丈だ。
「早くしろ、エシュディオル! お前も『災厄の王の使徒』なら王命を果たせ!」
「そうだな」
ランバートの右腕がぐにゃりと歪み、剣の形に変形した。
「首を刎ねる」
「っ……!」
ゾッと血の気が引いた。
命の危機に対してもそうだが、何よりも――。
仲間だと思っていた者に殺されそうになっている、その事実が。
何よりも絶望的で、悲しかった。
「ランバート……本当に、お前は」
「悪いな。俺は王の使徒。いや、魔術結社に関係する人間は、みんなそうだ。逆らえねぇのさ……」
ランバートの顔は悲しげだった。
「さあ、終わりだ――」
と、腕の剣を振り上げる。
どうする……?
俺は迷った。
強力なスキルを放てば、ランバートを吹き飛ばせるだろう。
けれど、今のランバートは人間じゃなく、使徒形態なんだ。
生半可なスキルは通じない。
やるなら、最大威力の一撃――。
力加減を間違えば、彼を殺しかねない。
「俺を撃つか、エリアル?」
ランバートが言った。
静かな声音で。
「俺は――」
答えが、見つからない。
「【アイスブラスト】!」
そのとき、横合いから氷魔法が放たれた。
「何……!?」
不意を突かれたランバートはまともに食らい、大きく吹き飛ばされる。
「今のは――」
「僕を忘れるなよ、君たち」
そこに立っていたのは、魔術師の少年――。
「ゼルス!」
値千金の一撃だった。