1 災厄の王と使徒たち
そこは、人間の世界とは別の次元にある異空間だった。
虹色に輝くその空間の最深部に城がある。
その城内の謁見の間――。
「我が力……戻りつつある」
王は静かに告げた。
眼下にかしずく数百の男女がいっせいにざわめく。
「間もなくだ……人の世界に向けて、我らの『大侵攻』が始まる。そう、かつてのように――」
「おお、いよいよ!」
「王よ、我ら使徒はあなたとともに!」
「我ら使徒はあなたとともに!」
彼ら――無数の『使徒』たちがいっせいに唱和する。
いずれも可愛い分身たちだった。
そう、『災厄の王』と呼ばれる彼の手足であり、手駒であり、そして――家族。
「かつての『大侵攻』では予想外の敵に一時撤退を余儀なくされた。人間でありながら神を超えるほどの力を持つ者――『超越者』のために」
王がうめく。
「今の世にも、あるいは存在しているかもしれぬ『超越能力』を持つ者が。だが、今回は不覚は取らん」
そのための準備をしてきた。
数百年の間――。
「それならば心当たりがあります」
一人の使徒が進み出た。
「私は人間に姿を変え、彼らの社会に溶け込んできました。そして――このたび見つけることができました。王の仰る力を持つ者に。おそらくは――」
「誠か、エシュディオル」
「はっ」
うなずくエシュディオル。
「ならば始末せよ」
「承知いたしました、我が主」
彼はゆっくりと顔を上げる。
にやり、と口の端がつり上がった。
「今こそ人間の姿と名前を――ランバートの名を捨てるとき……『希望の盾』との決別のときです」
人間の世界でランバートと呼ばれるその使徒は笑顔で告げた。