15 さらにフレアの想いと向かい合う
シンと静まり返った空気が、緊張感を煽る。
俺は息を飲んで妹の言葉を待っていた。
どくん、どくん、と胸の鼓動が高鳴っている。
「ううう……」
フレアが肩を震わせている。
「フレア……?」
「ううううう、や、やっぱり言えない~……!」
叫ぶなりフレアは走り出した。
「お、おい、どこ行くんだよ!?」
「家出ですっ」
「えっ!?」
「今のままではお兄様と過ちを犯してしまうのでっ」
フレアは叫びながら走っている。
ばたん、とドアを開けて、家の外に出て行く。
「お、おい――」
俺は慌てて追いかけた。
「何言いだすんだよ、フレア!? 過ちって……」
「いえ、むしろ過ちがあるくらいの方が私としてはいいのですがっ。お兄様にも心の準備をしてほしいので!」
「さっきから何の話だよ!?」
「私のこと、ちゃんと考えてくださいね! それまで私、ちょっと距離を置きますからっ」
言うなり、フレアはさらに加速する。
あ、あいつ、足速いな――。
俺だって全力で走ってるのに追いつけない。
……俺たちは庭の周りを追いかけっこした。
「はあ、はあ、はあ……」
さすがに疲れたのか、荒い息をついているフレア。
俺たちは今、数メートルの距離を置いて向かい合っている。
「フレア、距離を置くって……?」
「言葉通りです。しばらく、お兄様にはお会いしません」
怒っているとか、悲しんでいるとか、そういう感じじゃない。
強いて言うなら――どこか切羽詰まっているような、そんな雰囲気。
とにかく今はいったん離れた方がよさそうだった。
「……分かったよ。気持ちが落ち着くまで、待つから……」
俺はそう言い残して、背を向けた。
俺、フレアにどう接すればいいんだろう――。
正直、参った。
翌日、ダイニングにこんな書き置きが残っていた。
『しばらくミレットさんのところに居候させていただきます。フレア』