10 王国が求める人材=俺!?
突然のスカウトに俺は戸惑っていた。
「国の危機って、随分と重大そうな話だな……そもそも俺はFランク冒険者なんだけど」
「ランクは関係ないわ。あたしはあなたの……いえ、あなたたちの能力が一流だと感じたから声をかけただけよ」
ミレットが胸を張った。
「これでも人の資質を見る目はあるつもり。伊達にスカウトやってないわよ♪」
「スカウトかぁ……」
突然の話で、まだ頭がついていかない。
「行ってみませんか、お兄様」
フレアは乗り気のようだ。
「フレア……」
「お兄様を高く評価してくださる方がいるのです。私は、それだけで嬉しいです」
まあ、高評価で悪い気はしない。
とはいえ、具体的にどんな要件なんだろう。
王国の危機ってなんだろう?
で、俺はその危機に対して何ができるんだろう?
何を――やらされるんだろう?
「話を聞いて、条件などが合わなければ断ってもらっても構わないの。ただ、話だけも聞いてもらえると助かるわ」
「分かった。じゃあ一緒に行くよ」
「私もご一緒していいですか?」
と、フレア。
「もちろん。っていうか、あなたもスカウト対象だけどね」
ミレットが微笑む。
「じゃあ、話を聞いてもらうために場所を変えましょうか。ギルドの近くに美味しいお店があるから、そこで話しましょ」
そういえば、薬草を採り終えてから、けっこう時間が経っていて、すでに昼時だ。
ランチタイムといくか――。
「なるほど、【スキル鑑定・極】かぁ」
俺が自分のスキルについて説明すると、ミレットは感心したような顔をした。
ぱくぱく、もぐもぐ。
一方でパフェを食べる手は止めない。
彼女はどうもスイーツが大好物らしくて、目の前にはパフェやアイス、ミックスフルーツにパンケーキなど様々なお菓子と果物類が並んでいる。
そして、それを次から次へと平らげるのだ。
「あの……太りませんか。じゅるり」
フレアがそれを半ば呆然と見ている。
口からヨダレ垂れてるけどな……。
「ふふ、あたしは太らない体質だし、運動もいっぱいしてるからね~」
と、ミレット。
「あ、もしかしてフレアも一つ欲しい?」
「ほ、ほし……あ、いえ、太ったら、お兄様に嫌われるかも……」
「いや、嫌わないから」
俺は即座に言った。
「痩せても太っても標準体型でもフレアは俺の大事な妹だ」
「やったー! じゃあ、一つだけください~!」
「はい、どうぞ」
と、ミックスフルーツを差し出すミレット。
「んー、おいしい~!」
フレアはそれを食べながら、幸せそうな顔をした。
「――っと、話がそれちゃったね。あなたのスキル、思った以上に有用だと思う。やっぱり、ぜひとも協力してほしいわ」
ミレットが身を乗り出した。
「俺は、戦いは素人だぞ。ゴブリンロードにはいちおう勝ったけどさ」
「あたしが期待するのは、あなたの戦闘能力よりも、むしろ『育成能力』ね。最初は戦士としてのあなたをスカウトに来たんだけど、スキルの内容を聞くと、むしろ『育成者』としての役割の方が重要になるかも」
「えっ」
育成能力……?
「あなたの【スキル鑑定・極】は他者のスキルを成長させることができるんでしょ? その能力で、王宮に集まった精鋭たちのスキルを進化させてほしい」
ミレットが俺を見つめる。
熱いまなざしだった。
「上手くいけば、この弱小国ティルトが最強の軍団を持つことができる。きたるべき危機に立ち向かえる、最強の戦士たちを――」