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~Girl meet Boys~

『白雪姫』に、『シンデレラ』、『眠りの森の美女』に、『美女と野獣』…絵本はいつだってハッピーエンドしか教えてくれない。

世界は幸せなことばかりではないのに…。


春休みも残り少ないある日。

「…っ…んしょ、もう…ちょいっ…。」自分を励ます様に、呟いて、目的地である学生寮を見据える。

と、その時。ビリッ…ビビ…ドサ…バサッ…。持っていた紙袋が破け、中の絵本が流れ出て、地面に落ちる。

「……。最っ低…。」虚しい気持ちになりながら、絵本を拾っていると、

「…大丈夫?」落ちている何冊かを拾って、差し出してきてくれる人がいた。

「…っ…ありがとう…ございます…っ。」バッと顔を上げてお礼を言うと、

「いいえ。絵本好きなんですか?」汚れのないかわいい感じの笑顔が眩しかった。

「…っ。」ドキドキと恥ずかしさで言葉が出ない。

「…あっすみません、いきなり。それじゃあ…。」答えたくないのだと思われのか、さっと立ち去ろうとする背中に向かって

「っ…ほんと、に!あ、りがとうござい…ました!」緊張して動こうとしない口を、無理矢理に動かしてお礼を言う。

すると、振り向いたその人がきょとんとした顔から、ふんわりとした優しい笑顔になった。


「夢を与える職業を目指す人がそんなこと言って良いわけ?」友達には白々しく口を揃えて言われた。それはそうかもしれない。でもだからと言って、期待ばかりさせて、現実に裏切られた子供たちの気持ちを考えると胸が痛む。事実、くれないは現実を知った時、傷ついたのだから。


「よぉし!おとぎ話のハッピーエンドのその後を検討する会を結成しよう!」言いながら、ぐっと拳に力を込めて勢いよく立ち上がり、クラス全員の視線で我に返る。…授業中だったのだ。

「あっ…スミマセン。」居たたまれなくなり、謝る。

季露葉いろは…くだらんこと考えとる暇があるなら、廊下に立ってろぉ!!」沸点に達したらしい先生の絶叫が教室に響いた。

高校生になって初めての授業で、廊下に立たされても紅は動じていない。それより自分で立ち上げる部活のことで頭がいっぱいだった。

(後気になることといえば…。)

「あの春休みに会ったあの人は、誰だったんだろう…。制服着てたし、ここの生徒だよね?」瞼を閉じ、その人に語りかける様に呟く。彼の眩しい笑顔は心に焼き付いていた。

「もぅ、マジおかしいっ!紅なにやっとんの?」ケタケタと笑う前の席の紫杏しあん。紫杏は、寮の部屋も隣同士の高校に入って初めての友達だ。

「や、だって…入学前からずっと考えてたんだもん…。やっぱり小さい子にも現実をわかってもらえるようにしないとって…。」ごにょごにょと言い訳をする。

「そうなん?でも授業中は、あかんやろ、おもろいけどなぁ。」紫杏はまだ笑いが抑えられない様子だ。

「へへっ。でも決めたよ!私、部を立ち上げる!!」キッパリと言う。

「へぇー、あのハッピーエンドのその後なんとかってやつやろ?」本気だったのかと言いたげに紫杏が目を丸くする。

「『ハッピーエンドのその後検討会』!!んー長いから、略称は『H.E.A.I』でいいかな!」にこりとして見せる。

「おもろそうやから、うちも入りたいんやけど…うち部活推薦でココ来たから、弓道続けなあかんねん。…堪忍な?」しゅんとする紫杏。

「あ、そんな気にしないで?3人集めればサークルとして認めてくれるらしいし…あと2人くらい楽勝っ!」紫杏の手前明るく、簡単そうに答えたが…不安だった。


ポスターを貼り、ビラ配りをしてもなかなか人は来なかった。紅は何日も放課後暗くなるまで教室に残っていた。

1週間が経とうとしていたある日のお昼休み。

「季露葉さーん?先輩に呼ばれるよー。」クラスメイトの女子に呼ばれて行くと、男性が立っていた。

「季露葉さん?キミが作ろうとしている部活について聞きたいんだけどいい?えっと…屋上でも行こうか。」にこりと微笑むその人は、紅が春休みに偶然会った先輩だった。

隣を歩きながらもう一度確かめる。

(確かにあの人だ…!)

「…あ、の!」緊張で声が震える。

「ん?」やわらかい笑顔が紅に向けられる。

「春休みの時に絵本を拾うの手伝っていただいて、ありがとうございました。」その笑顔を見ていたら、自然に言いたいことが言えた。

「あぁ!あの時の!たくさん絵本持ってた子!?やっぱり絵本好きなんだね。」驚きを隠せない様子だが、嬉しそうに言う先輩。

「あの…、もしよろしければ、名前とか教えてもらってもいいですか?」照れながら言う。

「ごめん…そういえば、忘れてた。僕は、獅稀しき 白斗はくと。2年だよ。二卵性の双子で、弟もこの高校にいるんだ。」少し慌てた様子の先輩。

(白斗…白かぁ。ぴったりだなぁ。)ぼーっとそんなことを考えてると、

「季露葉さん大丈夫?」と顔を覗き込まれる。

「…へっ…平気ですっ!」狼狽えながら答える。

「あ、季露葉じゃなくて…紅でいいですよ?」何気なく言うと、

「そう?じゃあ紅さんでいいかな!素敵な名前だね!」と先輩。

先輩に名前を呼ばれて、誉められたことがすごく嬉しかった。


「私実は…絵本作家を目指してるんです。でも絵本ってハッピーエンドのものばかりでしょう?だから少しくらい現実を反映させたものがあってもいいと思うんです。それで…まずは、ハッピーエンドの後の検討からやってみようかなって…。」真剣に話した。先輩ならわかってくれる様な気がしたのだ。

「うん、確かに。でも、検討しても答えは出ないよね?それはどうする?」先輩は、予想以上に真剣な答えを返してくれた。

「それは…人それぞれでいいと思うんです。ただ集まってこういうのはどう?っていう話し合いが出来れば…。」嬉しくて、ワクワクしながら話を進める。

「そっか、そっか。なら、サークル結成だね!」にっこり満足気に話す先輩。

「え?」状況が掴めない。

「紅さんに、僕に、弟連れてくるよ。それで3人!」先輩がいたずらっぽく笑う。


サークルにはなったが、サークルは部室をもらえないので、紅の教室で活動することになった。

「紅さん、こんにちは。」爽やかに白斗が入ってくる。

「獅稀先輩!こんにちは。」なんだか普通のやり取りなのに、くすぐったい様な気持ちになる。

「あ、この前話した弟なんだけど…バスケ部と兼部だから、水しかこれないんだって。ちなみに、僕も美術部と兼部だから水、木は休むね、ごめん。今度の水に僕が弟連れてくるよ。」すまなそうな顔で先輩が話す。

「気にしないでくださいっ。趣味の延長線みたいな気楽なサークルですので、来られる日に来ていただければいいんですからっ。」あわあわと言う。

「ありがとう!あ、僕も名前で呼んでるし、紅さんも名前で呼んでいいよ?弟も来たらややこしいでしょ?」何気ない気遣いが嬉しい。

「あ…じゃあ白斗先輩…?」もごもごと言う。

「ん、何?」にこにこと白斗。

「よっ呼ぶ練習しただけです!す、すみません。」体中が熱くなった。


水曜日。放課後、紅が教室にいると廊下から、

「待てよ、しろってば!本当にこんなサークル入ったのか?」というぶっきらぼうな声が聞こえた。

「だって、おもしろそうだよ?ハッピーエンドの後を考えるなんてワクワクしない?」のほほんと答えているのは、白斗の様だ。


「あの…白斗先輩?」ゆっくり扉を開ける。

白斗の横には、目許が涼やかな男性が立っていた。白斗がかわいい系なら、この男はキレイ系だろうか。

「紅さん!あのね、これが話してた弟の黒斗こくと。無愛想だけど…イイ奴だからよろしくしてやってね。」

「よろしく…。」ムスっとして黒斗が言う。第一印象としては付き合いにくそうな人というイメージだ。

「あっ紅です…。よろしくお願いいます。」ペコッと軽く会釈をする。

「じゃあごめんね、美術部行くから!」白斗が走り去って行く。

「……。と、取りあえず入って下さい。」教室に招き入れる。

『……。』重い沈黙が続き、黒斗の視線に気づく。

「な、何ですか?」白斗とは別の意味で緊張する。

「1個聞きたいんだけど…。」

「何でもどうぞ!」無理矢理笑顔を作る。もちろん、『自己紹介の範囲内で』という意味だ。

「あんたさぁ、しろのこと狙ってるわけ?」冷めた瞳が一瞬だけ紅に向けられる。

「は?しろ…?」わけがわからない。

「白斗のことだよ!」苛立ったのか、語尾を強める黒斗。

「……っ!!」赤面したのが自分でも分かった。

「…チッ…悪いけど諦めて?」黒斗は、忌々し気に舌打ちをして、さらっと酷いことを言う。

「黒斗先輩には、関係ありませんよね。」負けてたまるかとわざと刺々しく言う。

「ったく。あるから言ってだよ。俺ら寮も同室で、一緒に風呂入って背中流しっこしたり、一緒に寝たりしてるもん!」にやぁと笑い、顔を窺ってくる黒斗。

「へっ!?本当!?」驚きすぎて、ついタメ口になってしまった。

「うーそっ。」あっさり言う黒斗。

「なんだぁ、冗談かぁ!」ほっとしていると、

「なんちゃって…実は…。」と内緒話でもするように声を潜める。

「どっ、どっちなのよぅ?」からかわれるのが癪で、ムッして答える。

「さぁてねぇ?」意地悪気に黒斗が笑う。


(この人には敵わない。)紅は心底思った。


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