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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
パーフェクト・スノー・ホワイト
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パーフェクト・スノー・ホワイト -2

  間もなく、スクールシップは学校の最寄りの港に着いた。最寄りとは言うが、港から学校までは上り坂になっていて、かなりの距離を歩かなければならない。始業時間ギリギリに港に着くよう登校時間を見積もると、もれなく遅刻してしまうだろう。

  船から続々と生徒が下船していくが、僕が降りたのは最後の方だった。ヒラノがいないか目で探してみたが、見つからなかった。この早い船で行くということは、朝から編集作業に追われているのかもしれなかった。


暦では夏が過ぎて秋の始めだが、まだ日差しは強い。学校に向かうまでの道は、整備はされているものの両側に木々が立ち並び、足元は土なのでほとんど登山道だ。車の数は少ないので、歩道と車道の区別もない。木々の葉が日陰を作ってくれるし、ほのかに潮が香る風が吹き抜けていくのが心地いい。それでも歩いているうち僕の額にじんわり汗が滲んだ。この島には学校の施設が点在している。クラスルームのある施設、体育館、実技の授業を行う施設、課外活動を行う施設と様々だ。特に、課外活動の施設は部が増えるごとに施設も増えていき、学校の敷地面積は年々拡大しているらしい。これ以上拡大するならば、学校内を循環するバスが必要になりそうだ。

 学校生活の半分以上を過ごすクラスルーム館は、島の中央付近にある。各学年のクラスルーム館が距離をおいて三角形を描くように立ち並び、その丁度中央には大きな芝生や花壇が広がり、生徒たちが学年のへだたりを気にすることなく集まって、休憩時間や昼休みを過ごせるようになっている。まだ始業時間まで三十分ほどあるが、花壇に水やりをやる生徒や、ベンチで読書をする生徒がちらほら見られた。僕も真似をして庭園でくつろごうかとも考えたが、少し歩き疲れたので教室内で休むことにした。

朝のクラスルーム館は静かだった。僕が階段を上る音は、やわらかい木材に吸収されてあまり響かない。教室の前のロッカーを開けて、荷物を整理する。僕のロッカーにはまだ個性がない。他の生徒のロッカーの中は、ステッカーや写真が貼られているのだ。僕は今後もロッカーにステッカーを貼ることはなさそうだ。好きなようにしていいと言われたら何もできない性質だ。

カラカラと音を立てて教室の引き戸を開けると、案の定だれも居なかった。僕は自分の机に教科書や文具を置いて、教室にやや熱気がこもっていることに気づいた。僕は窓を開放し、風を通した。涼しい風が吹き込んでアイボリーのカーテンを揺らした。空調をつける必要はなさそうだった。

僕が転校して、今日でたった二日目だ。それでも僕は、自分がこの校舎に溶け込んでいくのを感じていた。

 そわそわと落ち着かないという瞬間が不思議と無いのだ。僕は座席に座って、うつ伏せになりながら顔だけを窓のほうにやって、外で木の葉が揺れたり、雲が流れたりするのを見て、時々聞こえる鳥のさえずりや生徒の笑い声に耳を澄ませていた。そうしているうちに、僕はうたた寝に誘われたのだった。

僕が眠りこけている間に、教室には続々と生徒が集まった。じわじわと教室は賑やかさを増したはずだが、僕は起きなかった。僕を起こしたのは、クシロの弾んだ声だった。


「ミナミ、おはよ」


そう言ってクシロは僕の肩を優しく叩いた。

 僕はまるで日向ぼっこする老犬みたいにのっそり頭を起こした。クシロを見て


 「おはよう」


と返した声が掠れていて、僕は咳払いした。教室の時計を見上げると、始業五分前だった。もうじき先生が来る。


「あ、ノート返すね」


僕は思い出して、机からクシロに借りていたノートを取り出した。水色のノートはしっかり書き込んであるのに、表紙は新品同様に汚れ一つなく、僕は扱うのに少し緊張した。


「分からないところとか、読めないところとかなかった?」


 ノートを受け取ったクシロが聞いた。


「一つもないよ。字が綺麗だし、見やすかった」

「ほんと? よかった」


クシロは嬉しそうだ。多分、僕に聞くまでもなく、読めない箇所など無いという自信はあったのだろう。クシロは大人びているが、褒められ好きなところは、ちょっと可愛らしいと思う。

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