表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
プロローグ
4/24

プロローグ -4

 「ヒダカ君って、生徒会長とかやってそうだよね」


 そう言ったのは僕だ。どのくらい前だろうか。記憶の中で、僕とヒダカさんが同じ制服を着ている。つまり、中学生の頃、ヒダカさんが高校に入学する直前のことだ。夕暮れの中、僕らはのんびりとした足取りで帰路を歩いていた。ヒダカさんはアハハと快活に笑って僕の予言を否定した。


 「そんな面倒なこと、僕はわざわざやらないよ。生徒会長って、自分で立候補して選挙で選ばれて、やっとなれたと思ったら学校の雑用を任されるんだろう」


「そうかなあ」


腑に落ちない様子の僕に、ヒダカさんは「それじゃあ」と次のように宣言した。


「もし私が生徒会長なんかやってたら、君に毎日昼食を奢ったっていい」

 「ふうん」


僕は空返事をした。ヒダカさんが壇上で、持前のよく通る声で演説する様子を想像していた。妙に現実味があった。ヒダカさんは中学校で目立ったことはしなかった。進路に、恋愛に、親や友人との関係。中学生の僕らが悩みの種は尽きなかった。芽を摘む前に次の芽が生まれ、悩みの萌芽に圧倒されて身動きが取れなかった。一方、ヒダカさんは『何をそんなに悩むことがあるんだ』とでも言いたげに、冗談と自慢しか口にしなかった。進路を聞けば『陶芸家になる』とか『出家する』とか、みんながヒダカさんに抱いていた、浮世離れしたイメージと絶妙にマッチしていて、かつ現実味のかけらもないことを言って笑わせた。そして、ヒダカさんの自慢話は、もっぱら家族や友人についてだった。お母さんが街でスナップを撮られて、ファッション誌に載ったこと、幼馴染の僕が川柳の公募で特賞を撮ったこと、などなど。そんな風に、ヒダカさんは大人しくも明るかった。そんなヒダカさんだからこそ、人の上に立てば面白いことをしてくれるような期待があった。


「私よりも、君のほうが向いていると思うけどね」


 ヒダカさんの言葉に、思わず「え」と言った。自分が誰かを引っ張る存在になるということは想像もしなかった。それどころか、自分が今後何者になるか、何をしているか、ということが想像出来ないでいた。


「ミナミ君は論理的だけど、感性が豊かだし、いい人だからね」

「そうかな」

「うん」

「ありがとう」


そしてヒダカさんは少し夕空に目を向けて、考えてから言葉を続けた。


「君が副生徒会長なんだったら、生徒会長、やってもいいけどな」


 ヒダカさんの提案に、僕は曖昧に「あー」と言いながら想像し、返事をした。


「それは、おもしろそうかも」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ