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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
プロローグ
3/24

プロローグ -3

 「中学の頃は文芸部に所属。趣味は読書。純文学を好むがライトノベルを読むこともある。座右の銘は『有言実行』。特技は人の顔と名前を覚えること」

 「特技って程でもないですけど」


 生徒会長は片手にナポリタンパンを持ち、机に広げた質疑応答のメモを読み上げ、僕はその傍で立って横顔を伺った。特に不満の色は浮かんでいないし、少し微笑んでいるようにも見えたが、それは生徒会長なりの無表情だろう。


 「特技って程でもないのに特技だと答えたのか?」


そう訝し気に言ったのは、生徒会長の向かいに座る書記係のハギワラさんだ。切れ長の流し目が、僕を見上げる。


「あーいや、得意と言えば得意ですけど」

「なら、特技だろ」


ハギワラさんの言葉はハッキリしている。しかしその口調は僕を論破するというよりは、かつ丼を差し出す刑事のような哀愁があった。僕は、それを特技と認めてしまうのが楽な気がして、


「たしかに、そうですね」


と応えた。


「ていうか、座らんの?」


そう言ったのはハギワラさんの隣に座る広報係のユヤマさんだ。丸い瞳が僕を捉える。ハギワラさんとは逆に、言い方は穏やかだが、自分が立っていることが恥ずかしく感じられるほど、有無を言わせない力を感じた。


「あ、はい」


僕はその言い方に怖気ついたのを悟られないよう、素っ気なく返して生徒会長の隣に座った。


「敬語じゃなくてええって。同学年やねんから」


お言葉に甘えて、ユヤマと呼ぶことにする。ユヤマの言葉は、ちくちくする。僕はユヤマに負けないよう、余裕の笑みで


「うん、ありがとう」


と言った。ユヤマはそれで満足したようで、サンドイッチを食べるのを再開した。

 生徒会長、書記係のハギワラさん、広報係のユヤマ。体育館でも見かけたこの3人は、昼休みに生徒会室に集まって昼食を食べるのが習慣らしい。僕は今日、その会食に呼ばれたという訳だ。ただの生徒会とはいえ、これほど規模の大きい学校の生徒をまとめる組織だ。僕はなんとなく、幹部会議に呼ばれた平社員のような気持ちでこの生徒会室に足を踏み入れた訳だが、実際のところ、生徒会室は一般教室の半分ほどの広さで、三方をキャビネットに囲まれて狭苦しく、机を中央にぴっちり並べて全員分の席を確保しているし、生徒会はたった三人の小規模な組織で拍子抜けしてしまった。昼休みに仕事をしている雰囲気もなく、正直、暇なんだろうなとさえ感じた。


「で、ヒダカ」


ハギワラさんが沈黙を破った。ヒダカというのは生徒会長の名前だ。生徒会長はメモから顔を上げた。


「なんでミナミが副生徒会長なんだ」


そうそう、それが聞きたかったんです。僕は心の中でぶんぶん首を縦に振った。実際は静かに生徒会長に目をやっただけだ。それにしても、僕を生徒会長にするという案は、生徒会の中でも共有されていなかったらしい。それでも今まで生徒会長が問い詰められていなかったということは、それだけ信頼があるということだろうか。特に、ユヤマさんが今まで黙っていたのが意外だ。


「ああ、その件は二人に相談しなくて悪かったよ。でも、私も今日ミナミが転校してくるって知ったのは今朝のことで、相談する暇もなかったんだ。みんなにミナミを紹介してコミュニケーションを取ってもらうには、全校集会の今しかないと思って」


 「いや、そうではなくて。いやそうかもしれないんですけど」


僕は思わず、口を開いた。自分の学園生活にかかわることだ。相手が生徒会長とはいえ、このままはいそうですか、と納得することはできない。僕は率直な疑問を投げかけた。


「なぜ僕が副生徒会長なのかが分からないです。僕は今日転校してきたばかりですし」

「え? だって君がそうしたいっていったから」


生徒会長の言葉に、僕は返す言葉をなくした。しばらく口を閉じて、視線を空中にやって、


「……そうでしたっけ?」


と間抜けな声で言った。生徒会長がこくりと頷いたのを見て、僕は思考を過去の記憶に巡らせた。


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