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パフェ・オ・ブルーハワイ  作者: 三井葉
ハグ・ウィズ・ミー
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ハグ・ウィズ・ミー -5

日が高く登り、秋にしては気温があがった昼休み。

先日の件で、タダさんとオンラインミーティングのアポイントメントを取ったということで、会長は皆を招集にかけた。

もっとも、僕たちは招集をかけなくても大抵生徒会室に集まっているのだが、会長に毎日甘いランチを貰っている僕を除いて、ハギワラさんとユヤマは時々別の場所で昼を取ることもあるのだ。


僕は、背中に夏以来の薄い汗を感じながら、生徒会室の扉を開けた。会長の前にノートパソコンがあり、机の中央に円盤型の州オンマイクがスタンバイされていた。もちろん、僕の机にはランチが用意されていた。今日はベイクドチーズケーキだ。ハギワラさんとユヤマも席についている。


「やあ、ちょうどはじめようとしていたところだよ」


会長が僕に手をあげる。僕は会釈して席に着いた。隣の会長のノートパソコンのディスプレイを覗き見た。オンラインミーティングの画面は真っ暗だ。


「タダさんはまだ入ってないみたいだ。もうすぐつながると思うけど」


会長がそう言った途端、ピコン、と参加者の接続を知らせる通知音がして、画面上のカメラ映像が切り替わった。

画面にタダさんが映った。当たり前だが、制服ではなくパーカーを着ていて、ラフな感じだ。


「タダさん、こんにちは」

「どうも会長。タダの声、聞こえてます?」

「聞こえてるよ~」

「よかった。見えないけど、ハギワラさんとユヤマさんも元気かな?」

「ぼちぼちだ」

「元気ですよ~」


会長の向かいに座っているので、カメラに映らない二人は、声を出して応えた。


「うんうん、変わりないようですね。えっと、そちらは……」


タダさんの目線が動く。会長に隣にいる僕を見ているのだろう。僕とタダさんは初対面だ。


「ミナミです。よろしくお願いします」


僕は小さく会釈した。


「新副生徒会長だよ」


会長が付け足す。


「ああ、例の。タダです。よろしくお願いします」


タダさんは年下にも敬語で話すスタンスのようだ。


「タダは一応会計係をしています。聞いていると思いますが、あんまり学校には行かないので、存在感がないです」


「え~、そんなことないよ。生徒会のエースじゃないか」


タダさんの自虐じみたジョークに会長が笑う。タダさんは自分のことを名前で呼ぶようだ。


「で、今日タダが呼び出された訳っていうのは?」

「あ、そうそう、それなんだけど」


会長が説明を始めた。依頼者の娘、『モモ』はハリネズミで、二年間愛を注いで育ててきたこと。ドラマを見た依頼者が、愛のあるハグに憧れたこと。タダさんは時々斜め上を見て何か考える素振りをして、相槌を打ちながら聞いていた。会長は最後に言った。


「タダさん、君は私にとってなんでも可能にしてくれる魔法使いなんだ。ハリネズミを人間に変えるなんて、お安い御用だろう?」


会長の言葉に、タダさんは笑った。


「あはは、魔法使いなら、そうかもしれませんね。でもタダは魔法使いではありませんから。タダが使えるのは、テクノロジーだけ」

「私にとっては、魔法のようなものだよ」

「いや、魔法とテクノロジーは違うんですよ、会長」


会長もさすがにハリネズミを人間に変えようとは思っていないだろうが、そうかあと残念そうに眉を下げた。タダさんは続ける。


「魔法は一人でできるけど、技術は一人では完成できないんです。今回は助っ人が必要そうですね」

「助っ人がいれば、可能なのかい?」


会長の声が弾んだ。


 「そうですね。プログラムと設計はタダがするとして、動物の専門家や神経科学に詳しい人が必要です」

「そんな専門家が捕まるとは思えないが……」


ハギワラさんが渋い顔をする。


「居たとして、見返りもない個人的なことに手貸してくれるか分からへんですよ」


ユヤマが肩をすくめた。


「いや、そうとも言いきれないんですよ」

「というと?」


会長が食いつく。


「理由は二つあります。一つは既存の技術を流用するということ。技術者はゼロから何かを生み出すことはしません。いつだって前例を模倣し、組み合わせ、時に応用させることで実現するんです。具体的に言えば、世界中の優秀な技術者達は、インターネットに自分の技術やプログラムを公開しています。それを使うんです。

二つ目に、専門家や技術者にとって今回のケースは見返りがないとは言いきれないということ。確かに、『ハリネズミと愛のあるハグをしたい』という要件はレアケースです。しかし、レアケースこそ、未来に待ち受ける難題を乗り越えるための希少な前例になるんです。もしまた、同じような要件が生まれた場合、そこでこの技術は必要とされるでしょう。技術や知識は自分で持っているだけでは持ち腐れ。知識者は常に自分の持っているものを活用させたいと思っているものですよ」


「うんうん、いつだってタダさんの言うことは論理的だ。実現できそうな気がしてきた」


会長の表情は明るいが、僕は疑問点が残った。


「僕たちが使えるような前例を、どうやって見つけるんですか? 技術は無数にあるんですよね」

「大丈夫。昔、大学の神経学を学んでいる人と生体認証の開発をしたことがあります。その人に聞けば何か分かるかもしれません。大学は巨大なデータベースを持っていますから」

「なるほど」


 外には出なくても、タダさんの人脈は島を超えて張り巡らされているようだった。


 「すぐ連絡をとってみます。何か進展があれば連絡しますね」

「助かるよ」


タダさんと会長が二言三言交わして、オンライン会議は終了した。想像していたより、前向きに事が進んでいた。ササベに伝えたら驚くだろう。望みが実現しないことへの失望を吐露するだけのつもりだったのに、その望みを叶えるべく、学校外の人まで巻き込もうとしているのだから。

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